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熱にうなされて

作者: さち

最近体調を崩したばかりの自分ですが、体調を崩すと色々なことを考えます。

熱にうなされた時、貴方は何を思いますか?

 季節の変わり目は体調を崩しやすいというが、まさにその通りで、僕は現在高熱にうなされている。


 この歳になって、まさか39度5分の熱を出すとは思ってもいなかった。幼い頃はよく風邪をひいて熱を出していたが、最近ではそんな事もすっかりなくなり、健康体だとばかり思っていた。しかし、こうなると僕の身体ももう若くないのだと実感せざるを得ない。


 東京でマンションを借り、期待の新人と言われた一年目。仕事が慣れたせいか、無茶な仕事もこなすようになった二年目。上司や同僚から信頼を獲得し、大事な役を担われていた三年目の最中のこれである。自分の不甲斐なさに涙が出そうになる。上司はゆっくり休めと言っていたが、なかなか寝れずにいる。


 今朝、ベッドから体を起こそうとすると全身に倦怠感を感じ、それと同時に酷い頭痛がした。まさかと思い体温計で計ってみると、久々に見る数値に頭を抱えた。無論頭が痛いからではない。今日やらなければならない仕事を瞬時に思い出したからだ。僕はすぐ様職場に電話をすると、その仕事の件も相談した。すると、上司は平然とした声で「大丈夫だ」と、一言だけ言って、「しっかり休め」と言うと、電話を切られてしまった。




 幼い頃はよく熱を出していたので、平気とそこまで辛くはない。むしろ、どうすればいいのか分かっているため、困るということは無い。しかし

昔と違うのは、一人だということだ。僕が寝込んでいても誰も様子を見に来ることもなければ、近くに人の気配すら感じることが出来ない。あの時は感じなかった心細さを感じている。




「どうした、けいた!また熱出たのか!」


 僕が熱を出すと、決まって僕の部屋に来ていたおじいちゃん。心配してくれて来てくれていたのだろうけど、当時の僕にはおちょくりに来ているようにしか思えなかった。


「けいたは本当に体が弱いな!だからもっと外で遊べと言ってるんじゃよ」


 マスクもせず、普通に会話を続けるおじいちゃんは、決って同じ話をする。俺の体が弱いだとか、外で遊べとか、野菜を食べろとか、今その話を病人に言うのかよと口にしたくなる程、毎回毎回同じ話をしていた。


「そうじゃ!けいた!腹減らんか?じいちゃんが何か作ってやろうか?」


 それに毎度毎度、こちらの都合もお構い無しにご飯を作ろうとする。食欲が無いからいらないと言っても、「食べな治らんやろ!」と言い、台所に行ってしまう。


 おじいちゃんの作るメニューはいつも鍋焼きうどんだった。冬だろうが夏だろうが、僕の食欲に関係なく、赤味噌で煮込んだ熱々の鍋焼きうどんを作ってくれた。


 普段料理をする訳でもないおじいちゃんだけれども、僕が寝込んだ時だけはこの鍋焼きうどんを作ってくれた。包丁を握っている姿など見たことがないのに、おじいちゃんが作る鍋焼きうどんは格別だった。ただ、猫舌の僕には凶器にも思えるほどの熱さだった。



 そんな事を思い出していると、急にお腹が空いてきた。


 僕はベッドから起き上がると冷蔵庫の中を物色する。すると、冷凍庫の奥に冷凍の鍋焼きうどんを発見した。僕はそれを取り出すと、すぐさまコンロの火にかけた。


 ゆっくりと汁が溶け、部屋中に美味しそうな匂いが漂うと、ぎゅるぎゅるとお腹が鳴り出した。熱にうなされていようが食欲は健在のようだ。



 三分ほど煮込むと完成した。僕はそれをこぼさないように慎重にテーブルへと運ぶ。一歩歩く度に頭痛がし、くらくらするのが分かる。


 ちょうど、テーブルに新聞があったのでそれを鍋敷きに使う。


 ソファーに座り、さっそく食べようと思ったが、箸を持ってくるのを忘れていた事に気付き、再び立ち上がると、突然スマホが鳴り出した。こんな時に誰だよと思い画面を見ると、そこには “ 実家 ” の二文字。まさか俺の事を心配してくれて電話でもかけてくれたのかと、期待して画面をスライドする。


「おお!けいたか!元気にしてるか?」


 電話の相手はおじいちゃんだ。こっちの都合はお構い無しの大音量。頭に響く。


「元気、元気だよ。どうしたの電話なんかしてきて?」


「いやな、けいたが元気にやってるか心配でな。お前すぐ熱出すからの」


「心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんとやってるから」


「そうか!なら良かったわ!そうじゃ!またじいちゃんが何か作ってやろうか?」


 「何か」と言ったところで選択肢は一つしかない。


「なら、また鍋焼きうどん作ってよ。俺、じいちゃんが作る鍋焼きうどん好きなんだよ」


「そうかそうか!ならまた今度作ってやるからな!じゃあ、元気でやれよ!」


 そう言って電話は切れた。


 目の前の鍋焼きうどんには、未だ湯気が立ち込めている。


「嘘つきだな、じいちゃん」


 その鍋焼きうどんには、舌を火傷するほどの熱は無かった。

 

Twitter企画「リプで来た3つのお題で小説書く」の第二弾です。

今回は、「味噌煮込みうどん」「おじいちゃん」「孫」の3つでしたが、自分が書くとこうなりますね。珍しく綺麗に終わらせられた気がします。

次の作品も楽しみにしていてください。

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