第九十七話 見破ったり
クリス達に会わないよう太陽組のシェアトの部屋に行き、話を聞かれないよう念のため防音魔法を部屋にかけると三人は自分達が冷え切っているのに気が付いた。
エルガは椅子に腰かけ、シェアトはベッドに座り、クッションの上に座っているルーカスを見ていた。
まだ落ち着かない様子のルーカスは深く息を吸い込んだ。
そしてどこから話そうかと呟いて、ゆっくりと話し始める。
「……僕が、気になったのは……校長からカイが日本に行くように言われた時からだった。カイをここから一人で出すなんてリスクが大きすぎる。それがもし本当に何でもない事なら、そもそもこの学校で暮らす意味が無いだろう」
「……それは僕も思ってはいたね。ただここに置くのはカイが危険な人物ではないと判断するまでの言い訳で、ようやく無害だと判断した次の一手なのかと考えていたけど」
特にそれについて何も思っていなかったシェアトは話に乗り切れずに先を促す。
「家で倒れた拍子にこの学校に着いたんだから、この学校の方がまだカイが元の世界へ戻れる何かが見つかる可能性があるはずだろ? なのに日本まで送っておいて、向こうで何も見つからなかったら雰囲気を懐かしんで来いだなんて馬鹿げてるよ。カイのいた世界とこの世界の日本が似ている確証なんてあるわけないのに。リスクが高すぎるんだ」
「確かにそうだね、カイは純粋な子だから大して深く考えていなかったようだけど……」
「なぁ、もうちょい簡潔に話せねぇか? それもあくまで仮説だろ? まさかそれだけの漠然とした理由であんな必死になってた訳じゃねぇだろ。そうなら俺は本気でえげつないお前の悪口言いふらすぞ」
いくらルーカスとエルガが同意していても、シェアトには余り納得できなかった。
そんなものは捉え方一つでどうとでもなる話にも思えたし、何より校長を疑ってもいいものなのか今一つ決定打に欠けている気がした。
「もちろん違うよ、 君の場合は普段からやりかねない気もするけど……。……それでしばらく僕は僕で本当にカイのような事例が一件も無いのか調べてみた。もしもあったなら、その後どうなったのかとかそれまでどうしていたのかとか知りたい事が山の様にあるからね。知書室の資料室は世界中の本を読む事が出来るんだ」
全く知書室へ出入りしないシェアトに対し、一応の説明も加える。
「検索ワードを書いた札をカウンターに出すと本棚が全部動いて本も入れ替わって行く。まあ、いくら絞ったって物凄い量なのには変わりないんだけど」
「ああ、だからここ最近ずっと知書室にいたんだね。言ってくれたら手伝ったのに、何故隠したんだい」
エルガは呑気に頬を膨らませ、ルーカスに問いかける。
彼のそんな雰囲気にルーカスは少しだけ張り詰めていた気が和らいだ。
「……その時は、どこか校長を信じられない自分が嫌で少しでも納得したかっただけだったんだよ。だから、本当に皆に言っていた気になる事があるっていうのはあながち嘘じゃないんだ。でも、一件も見つけられなかった。どんなに胡散臭い本だって読んでみたけど、無かったんだ」
「それがなんだよ? じゃあやっぱりあいつが初めての異世界人だって事だろ」
「いや、少し不自然だね。異世界への可能性はある程度考えられているし、現実にカイはこうして僕らの前に現れている。確かに件数はかなり少ないだろうけど、そういったオカルト関係にすら一つも載っていないなんて」
顎に指を当て、考え始めたエルガにシェアトはようやく事態を理解し始める。
「恐らくだけど、先手を打たれてる。全ての本を読めたわけじゃないからまた仮説になってしまうけど、検索ワードで異世界と入れても本が一つも出てこない。こんな事はありえないと思う。制限をかけられてるんだろうね。何か見られたくない物があるんだ」
「……制限をかけられるのは、教員と校長か。そうなると本の中身を改変するのも容易いだろうね、僕らとは扱える魔法のレベルが違いすぎる。……それで、そろそろ結論を言ってくれてもいいんじゃないか?」
「ったく、前置きが長ぇんだよ! カイがギアに日本に送られたのは確かに止められなかったけど、それの何が問題なのか教えろよ」
言葉を選ばなければと思うが、どう言ったところで伝える事は同じだ。
自分でも信じたくはない。
だが、先程のギアの動きを見るとその考えの裏付けになってしまった気がする。
覚悟を決めて、ようやく二人に事実を告げる。
「……この世界の日本にもカイが存在していたとしたら……その二人が出会ってしまったとしたら……恐らく異世界から現れた、僕らの知っている方のカイは消えてしまう。そして校長はそれが狙いなんだよ」