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第九十二話 あの二人に教えたい

「ねぇランラン、この椅子あたしの部屋にも欲しい」


 雰囲気によって敬語が抜けてしまうのか、初めて自分一人でランフランクの元を訪ねた甲斐はフィットする一人掛けの椅子に座ってはしゃいでいた。

 その様子を全く気にしていないランフランクは鼻の下の髭を人差し指を横にして撫でつけている。


「考えておこう。さて……来てくれて嬉しいよ、何か話があるのだろう。遠慮なく言ってごらん」

「危ない、椅子ねだって終わるとこだった……。あの、あたしが異世界から来たって他言しないようにって言ってましたよね?でもあと二人だけ、教えておきたい人がいるんです。これラスト。ラストにするんで」

「物怖じせずに自分の意見を言うのは良い事だ。しかし、その分相手からの意見もまた厳しいものになるのは理解しているか?」


 その言葉にどういう反応なのか、甲斐は前歯を少し出した。


「……許可をする訳にはいくまい。それは友人のようだが、この先更に君の友人が増えることが無いと言い切れるか? 増えたら増えた者達にもどんどん教えていくのか? 情報を甘く見てはいけない。その友人と君の間にいつ何が起きるかわからない、人と関わるというのはそれほど脆く危うい事だ。そして時に人は恐ろしいものだ。君自身が自分を守らねばならん」

「……じゃあもし、口が滑ってしまったら?」


 そう言った表情は、どこか楽しそうに見えた。

 互いに一瞬たりとも目を逸らさない。


「もしも話は好かない。そして万が一だが故意ではないにせよ、伝わってしまった場合は……、君が関わった記憶を消すことになる。……事情を知っている三名にその措置をしないのは、あくまでもここでの生活が色の無いものになっては余りにも可哀想だからだ。そこを履き違えないよう」

「温情措置、って事かあ。分かりました、ありがとうございます。あと、日本行きなんですけど何日頃ですかね? それこそ、友人に聞かれたので」

「休暇初日でもそれ以降でも、好きな時に行けるようにしておこう。担当教諭に話を通しておく。ただ、元の世界で住んでいた地名や住所を教えておくれ。全く見知らぬ場所に行っても意味が無いだろう」


 いつの間にか甲斐の膝の上には、下敷き付きの紙とライトペンが置いてあった。

 ペン先がライトになっており、書きたい言葉が光を当てるだけで記入できる甲斐の好きな筆記用具だ。

 記入が終わると、ランフランクの元へ動物のような動き方で紙とペンが戻って行く。

 どうやら彼が場を和ませようとしてくれたらしい。



「うわあ~それすっごい気持ち悪いですね!」

「趣味じゃなかったか、失敗だ。さて話は以上かな? 試験も中々の結果だったそうだな。正直な所、適応能力の高さには驚かされているよ」

「うっひょう! 校長直々に褒められた! これはあたし史上始まって以来の大快挙やでえええ!」

「では、また何かあれば来るといい」

「はーい、ごきげんよう!」


 激しく喜びを表現しながら退室する甲斐が人目のつかない場所に戻って行くのを、グラスの水で見ると震える吐息を漏らした。



 彼の瞳は光を失い、落ち着きのある紳士的な雰囲気は打ち消え、刻まれた皺の一つ一つが正しい位置に戻ったのかと思う程人相が変わり、今は人を怯ませるには充分なほどだ。

 そして立ち上がると杖を床に強く鳴らし暗闇に消えて行った。

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