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第九十一話 そこに貴方がいないのに

「私この後外出予約してこようと思うんだけど一緒に行く?」

「そうだね、時期が遅いと混んじゃうし僕も行くよ」


 テスト後の授業は内容が少し軽く感じ、課題も少ないので最近の休日は一層楽しいものになっていた。

 食事後はロビーの暖かさを味わいながら話したり、ゲームをしたりと思い思いに過ごしているのだが、クリスの提案にルーカスが立ち上がり、フルラも付いて行くようらしく懸命にスカートのひだを直してる。


「カイちゃんも行こうよ~。あ、そっか。外出許可貰うの初めてだもんねぇ」

「……あ~……、あたしは、ほら、 今すっごいお腹と心と頭と腰が痛いから……あと耳鳴りも凄いし」

「耳鳴りは別に関係ねぇだろ。何に支障あんだよ」


 外出許可をランフランクが取っておくと言ってくれていたが、それをクリスとフルラに話す訳にはいかない。

 それにしても嘘が下手というよりも、ここまで酷いと何がしたいのか分からない。

 怪訝そうに彼女を見ているクリスに気付き、ルーカスが大体の事情を察して助け舟を出す。


「それは大変だね、じゃあ僕達で先に行って来ようか。まだ時間はあるし、早めに申請しないと許可が下りないなんてことも無いから心配しなくても大丈夫だよ。じゃあまた後でね、さあ行こう」

「ちょ、ちょっと押さないでよ! カイを置いてくの!?」


 編入してきた彼女を何故置いていこうとするのかクリスには分からない。

 エルガは甲斐の肩に手を置き、髪をなびかせ彼らを見送る。


「ははは、僕からカイを奪えると思うなんて愚かだね!」

「じゃあ、ちょっとだけ待っててねぇ~……って…… わ、私を置いて行くのはいいの!? クリスちゃぁん、待ってよぅう」



 三人が行ってしまったのを確認すると、甲斐は一仕事終えたような顔をしていた。



「ふい~! 危なかった~! ていうか二人は本当に帰らないの? 一日も? いいの? 後悔しない?」


 事情を知らない事を思い出したのか、シェアトは苦虫を噛み潰し、更に無理やり飲み込んだような顔をしながら唸りだした。


「……あー……俺んち弟いんだよ。 それがまった誰に似たんだか小憎たらしいガキでよ! 『兄さん、そんな言葉遣いは恥ずかしいですよ』とかなんとか言ってくんだこれが! あいつでかくなるにつれて嫌味も増してきやがって! 俺の事目の敵にしてやがるんだぜ!?」

「ヤバい。弟君、物凄いまともな人間だ! 滅ぶべきは貴様だろ!」

「なんだと!? 会ってみろよあいつに! お前なら一分後にはあいつの返り血浴びてるな! ……まあ、あいつは俺と正反対なタイプだから親も期待してんだよ。それにあいつがいればセラフィム家は絵に描いた様な幸せなスイートホームだ」



 だから、帰らない。



 そう続くのだろうか。

 気を使わせまいとしているのか、甲斐の背中を思い切りたたいて笑うと話を続ける。

 

「去年帰った時も相変わらずのクソガキっぷりだったからな。今年は元から帰らないつもりだったんだ、お前がいるからってのも確かに理由の一つだけどそれだけじゃないから気にすんな。年末に怒鳴り合いなんて親だって聞きたかねえだろ」


 甲斐が何かを言おうとした瞬間、シェアトが吹っ飛んでいった。

 真空波をエルガが撃ち込んだようだ。


「何故カイの背を叩いたんだい!? 油断ならないな、全く! 気を付けたまえ!」


 珍しくシェアトが強気でエルガに向かって行ったが、こてんぱんにされるのも時間の問題だろう。

 やはりまだお互いの知らない部分が多くあるのだと実感した。


 クリスとフルラには大きな隠し事をしているのも、このままではいけない気がする。

 しかし、二人に話す前に一度ランフランクに相談した方が良いだろう。

 ポケットの中には校長室の鍵が今日も入っていた。

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