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第九十話 赤と金の思い出

「そういえば、今年は君、何日に帰るんだい? 年末は忙しいんだろう?」


 ビスタニアの部屋でホットビターを飲みながら、ウィンダムはふと思い出したように問いかける。

 今まで二人で勉強をしていたのだが、顔を上げると彼の視線は窓に向けられている。

 その目線を追うと雪がちらついていた。


 もう、そんな時期かとビスタニアは一瞬で憂鬱な気分に陥る。


「通りで部屋が暗いと思った。俺がというよりも父が仕事の関係上忙しいからな……。去年と同じで、そうなる前に早めにここを発ってまたすぐに帰って来る予定だ」

「そうか……。じゃあ、また今年もここで二人で年越しだな」



 気を取り直して笑いかけるが、ビスタニアの顔は浮かない。



 食べて飲み、こうして会話が出来る分、去年よりはかなりましではある。

 ある程度事情を知っているウィンダムは、何も言えず、何もしてあげることも出来ない自分に腹が立った。


 多くの魔導士や偉人を卒業生として送り出したいわゆる名門と言われる学校で二人は、幼稚舎から中学校まで一緒に過ごしてきた。

 その中でビスタニアが首位を他の者に譲った時など一度たりとも無かった。

 彼が並々ならぬ努力をしているのも知っていたし、彼の家ではその結果は当然らしいのだ。

 だがこの学校に来てから、エルガ・ミカイルがどの科目も常に首位を独占し、その結果は各家庭にも送られてしまう。


 去年の冬に帰省する前の彼の顔色は酷過ぎた。

 どんなに控えめに言っても死相が出ていたのだ。


 何日もろくに物を食べずに、会話もままならない状態が帰省の日が近付くごとに悪化していった。

 そして再会した彼は、数年間戦場に送り込まれ、死線を見て来たようにやつれきっていたのだ。

 あんな彼を見たのは初めてだったが、今年も残念ながらエルガ・ミカイルが首位を独占していたので悪夢の再来かと思ったが意外にも大丈夫そうだ。


 そもそもこんなにも彼と仲良くなったきっかけは、まだ初等部の頃だった。

 家も近かったので顔を合わせる事も多く、元からある程度の交流はしてはいたが、特段仲が良いという訳ではなかった。

 皆がライバルだ、敵だと教師に言われ続けてきたので、仲の良い友人などいなくて当たり前だった。


 だから、あの日は本当に偶然だった。

 誕生日の前日、とうとう家の紋章のピアスを付ける歳になり、見た目に何の特徴も無い自分がアクセサリーを身に付けるのが、なんだか気恥ずかしかった。


 今思い出しても死にたくなるが当時の自分は、髪の毛は今と違って金と黒ではなく黒一色だったし、その上ぺったりと整髪料で固められていたのだ。


 そんな事を考えながら学校に行き、自分の席でぼんやりとしていた。

 いや、完全にぼんやりし過ぎたのだ。

 気が付けば教室には誰もおらず、次がどの移動教室に変更されたのか、それ以前にその連絡もいつ入ったのか分からなかった。


 今では些細な失敗だと笑えるが、当時の自分にとっては大事件だった。

 体が震え、涙が零れそうになった時に、君は現れた。




「あ~っ、やっぱりいた! キミ、さっきセンセイのおはなし、聞いてなかっただろ!? いどうきょうしつだぞ、じっけんしつだぞ! ほら早く……な、なんだ!? なんで泣くんだ!?」




 そうだ、あの当時のビスタニアは赤毛ではなく銀の地毛だった。

 それどころかいつもかなり短めにされていた。

 

 やっぱりとうとう泣いたのは、探しに来てくれた安堵感と気にかけてくれていたという嬉しさがごちゃ混ぜになったからだろう。

 そして未熟な自分はその後このビスタニアに手を繋がれて実験室に連行されるんだ。


 その時に、小さな自分は泣きながら、ピアスが似合わないのではないかという不安を全て話してしまったが、その間ビスタニアはずっと黙っていて、何も言ってくれなかった。

 そしてその日の放課後、迎えを待っているとビスタニアらしき人物が声を掛けて来た。

 判断に困ったのは、こんな原色に近い赤色の髪の毛をした人物は記憶に無かったからだ。

 そしてフラスコに入った毒々しい色をした液体を突き出して、偉そうにこう言ったのだ。


「ピアスするのはフリョウだから、フリョウのかみのけにしたらきっとにあうだろ。ボクもさっきのんだからだいじょうぶだぞ。ボクがつくったんだぞ、かんしゃしろよ」


 彼のおかげで、聞いたことのない母の絶叫を耳にすることになるのだが。

 色を元に戻される度、ビスタニアとまた薬を作って飲んで帰るといういたちごっこに折れたのは、どちらも親の方だったようだ。

 今にして思えば、彼の家庭の方が大変な事件に発展してしまったのではないだろうかと思う。

 そうこうしている内にこのフェダイン魔法訓練専門機関学校に二人揃って合格し、相変わらずの髪色で、二人肩を並べているのは不思議である。




 本当に、不思議なのである。




「何をさっきから笑っている……?」

「ねぇ、僕達って……不良だよね?」

「訳の分からない事を……。 ……!?」


 良かった、覚えているのは彼も同じようだ。

 赤面したビスタニアに部屋を追い出されかけながら、やっぱり抑えきれずに吹き出してしまった、

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