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第八十九話 年末の予定

「あっ、ほら見て! 雪!」


 無意識に声が弾んだ甲斐につられ、皆が窓を見た。


「げっ、もう降り出したか……。今年早くねぇか?」


 シェアトは迷惑だとでも言いたげに外を睨む。

 クリスは暖かな飲み物をお手伝い天使に頼み、雪を見て笑った。


「そうね……、まだ十一月の始めよ? はぁ……最近寒かったもの」



 いつの間にか生徒達は冬支度を済ませている。



 女子は冬でも実戦練習が行われるので手袋にコート、マフラーや帽子に耳かけなどアイテムがあるので、冬は他の季節よりもカラフルな出で立ちだ。

 しかし男子はまだコートを羽織っている者は少なく、手袋とマフラー程度で寒さを凌いでいた。


 やはりというかなんというか、注文すればいくらでも防寒着は用意してもらえるのだが甲斐は長めのマフラーを二回ほど首に巻き付け、余った部分を使い、蝶結びをしているだけだった。

 手袋はしていると手が痒いといって頑なに着けない。

 余りに心配したクリスが耳かけをさせてみれば何故か全く無音になってしまったらしく、外してやるまでパニック状態で騒いでいた。

 コートも雪が降っていないという意味不明な理由で着ようとしていなかった。


だがようやくこれで甲斐も風邪をひく前に防寒してくれるはずだ。


「暗くなるのも早いしねぇ……、そういえば皆って冬期休暇はどうするの~?」


 月組のロビーの窓を覗きながら聞いてみたが、誰からも返事は来なかった。

 十二月の半ばから一月の終わりまで冬期休暇が与えられるのだが、その間実家に帰る事も許されるが寮に残るのも特に問題は無い。


「私は実家に帰るわ、ここにいる間は外部と連絡が取れないしうちの親って過保護だから大変なのよ」

「そっかぁ、私の所も似たようなものだよう……。末っ子だからっていうのもあるからかも……。そういえばクリスちゃんは一人っ子?」

「そうよ、私しか子供がいないから尚更寂しいのかもね。でもなんか、フルラが末っ子って分かるわ」




 会話が途切れる前に甲斐も自然を装って話に加わる。




「あたしは日本に行……じゃなかった、帰る予定だよ。でも数日位だと思うなあ、二人はそのまま実家で過ごすの?」


 頬を膨らませたフルラの顔を甲斐が両側から潰す。

 その言葉に驚いたのはルーカスとエルガだ。



 口元は笑っているが、とても何かを言いたげな目をしている。



 そういえば二人にはまだ話していなかった。


「そうね、私はそのまま学校が始まるまでいようかしら。でもカイ、年越しもあるのにいいの?」

「私もクリスマスもあるから実家で過ごす予定だったんだけどぉ……日本はそんなに年越しとか……重要視してないのぉ?」


 年越しにクリスマス、言われてみればその時期だ。

 しかし甲斐にはこの世界のどこを探しても彼女の帰りを待っている家族も、自分の部屋も無い。

 ずっと家族で過ごしてきた気もするが、その思い出も宝物庫に預けてある為おぼろげだった。



「いいんだよ、俺も今年は残るから盛大にパーティしようって約束してんだ」



 ソファの背もたれから顔を出して言ってきたシェアトを甲斐は目を丸くさせる。

 そんな話は初耳だった。

 しかし反論するよるも早くエルガがシェアトの向かいのソファで足を組んだまま、声を上げた。


「……奇遇だね! 僕もその話をカイに今日しようとしていたんだ! 夢の中ではもう何度もしていたんだけどね! いやあ、賑やかになりそうだ!」

「あら、そうなの。やだ、言ってくれたら私だってイヴぐらい参加するのに! 日程組み直そうかしら」

「えっ!? 皆残るのぉ!? わ、私も残りたいなあ……。ううん、残れるようにするよぅ……!」


 甲斐はこの流れに出遅れてしまった。

 どこからおかしくなったのか分からないが慌てて立ち上がり、流れを変えようと試みる。


「待って待って、そんな予定をずらさなくても大丈夫。あたし達のクリスマスパーティなら少し早目にしようよ。家族と過ごす時間の方が少ないんだから削っちゃ駄目。それにシェアト、そんな……」



 突然、口が途中で閉じたまま引っ付いて離れなくなった。



 誰の仕業か、第一容疑者を睨むと案の定シェアトがにやりと笑っていた。

 流れを見ていたルーカスが本にしおりを挟むと話にようやく参加する。


「そうだよ、それに僕も実家に帰るつもりだったし。二人共前に家族に会った時に次に帰る日付を約束しているんじゃないのかい? 僕らは連絡も出来ないから心配をかけてしまうよ? それにきっと、君達以上に楽しみにしているはずだ」


 言われてようやく渋々といった顔で引き下がった女子二人に笑いかけた後、シェアトとエルガを見て眉を上げ、再び読書に戻ってしまった。

 ようやく甲斐の口が自由になった頃、窓の外は雪景色に変わっていた。



 このまま止みそうにない雪は、しっかりと冬を連れて来たようだ。



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