第八話 まだ見ぬ不安な教育者
花壇を縁取るレンガに三人は並んで座った。
甲斐が今朝からの出来事を話し終える頃、時刻は夕方へと移り変わろうとしていた。
そよぐ風は花の匂いも一緒に運んでくる。
「まあ、俺らのこの世界にも魔法が使えないやつもいるけど……魔法自体は知ってるしなあ……。本当に全く別の世界から来たってことか?」
シェアトが甲斐の話を聞き終わると眉を寄せ、困ったような声を出した。
「もうそうとしか考えられないなあ。この学校も普通にみんなが知っているような世界じゃなかったし。
魔法なんてそもそも作り物っていうか、おとぎ話っていうかとにかくそういう扱いだったし」
甲斐は当の本人だというのに、妙に落ち着いて話す。
ルーカスは暫く黙っていたが、思考を整理するように小さな声で話し始める。
「……でも、ここ自体そもそも魔法に適性が無いと入れないようになっているんだよ。間違って入ってくること自体が考えにくいんだけど……うーん。カイが異世界の人となるともう分からないね……。今までにもこういった事があったなんて聞いたことないしなあ……。あ、一概には言えないから今のは気にしないでね。僕が知らないだけかもしれないし」
手を振ってルーカスは甲斐に気を遣う。
「ルーカス、あたしそんな情緒不安定な女じゃないから気にしなくていいよ。で、あたしはとりあえず元の世界に帰りたいんだよね。さっき話したあたしの世界にも学校があるんだけど通わないとだし。だからどうにかして戻してほしいんだけど……。ルーカス達の魔法でちゃちゃっと出来ない?」
二人は難しい顔になり、黙ってしまった。
こちらの世界に甲斐を連れて来たのは彼らではないのだが、甲斐が頼れるのは彼らしかいないのだ。
それを二人も分かってはいるのだが、ここではない他の世界が現実に存在していることに先程まで驚いていたのだから甲斐が戻る方法がすぐに出てくる訳は無かった。
「こういうのは先生に聞いた方がいいんじゃねぇか? 俺らだけで考えてたってどうしようもないだろ。
安心しろよ、カイ。そんな魔法が使えないやつを殺したりするような世界じゃねーから」
「うーん……そうだねぇ。このまま夜になったらカイも困るだろうし……。誰がいいかなあ」
「お二人とも、申し訳ない。お願いだから見捨てないでね、絶対。信じてるよ、全身全霊で」
何度も念を押している甲斐の表情はどこかぎらついており、裏切りに怯えているようだ。
面倒そうにシェアトは甲斐の額を叩くと立ち上がり、伸びをする。
「はいはい。じゃあとりあえず……ギア先生とかいいんじゃねえか? あの人はめんどくさいけど知識は豊富だろ」
「あ、ああー……。そうだね……仕方ないか……。じゃあ行こう。どうせまた教室にいるだろうし……」
「そんなに微妙な反応される先生って本当に大丈夫なの? もっと他の先生たちを思い出してみてくれない?」
何か良からぬものを察知したのか、甲斐は目を合わせない二人を怪しむ。
「あー……大丈夫大丈夫。ちょっと頭があれなだけだからそんな心配すんなよ」
「そうそう、少しだけあれな人だけどそこまでのあれではないから……」
「あれって何!? 聞きたい部分があれあれ言ってて伝わってこないよ全然! ルーカス何笑ってんだおいこら!」
中央館へと向かい始めた二人は大丈夫を異常なまでに繰り返すようになった為、甲斐の不安度は今日一番のものへとなっていく。