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第八十八話 結果発表

 この日は生徒達がいつもより早起きをする。

 何故なら試験の結果が全寮のロビーで七時に開示されるからだ。


 科目ごとに平均点数が記載されいるので、順位と共に自分の獲得した点数を確認していき、寮別と全総合結果の順位に一喜一憂するのは学生の醍醐味といったものだろう。

 余りにも結果がふるわないと補習となり、補習でも不合格となれば退学になるという厳しい規律があるのだが、元々高い志を持った者が集っているので成績不振にて退学という生徒は今までに例が無い。


 補習を受ける生徒は稀にいるが、それも試験当日に体調を崩してしまったり、やむを得ない事情があって試験を受けられなかった者が挽回する機会として与えられるものである。

 それ以外に該当する、いわゆる普段の努力不足で補習になってしまった生徒は死にもの狂いでラストチャンスに挑む事となるので、過酷である。

 こういった後者の残念な生徒は、残念ながらやはり少数ではあるが確かに存在はしているのだ。


「やった! ギリギリセーフよ!」

「おはようクリス、良かったじゃないか。補習は無かったんだね」


 混み合うロビーの端で人が少なくなってから確認しようとしていたルーカスの元に、飛び跳ねながらクリスがやって来た。

 しかし、その言葉に彼女は一変してしまう。




「補習?あるに決まってるじゃない! 試験時間丸々私が寝てたの忘れたの!? 他の教科がどうせ平均以上、いいえそれどころか上位をキープし続けてる貴方からしたら細やかすぎる喜びだったの! ごめんなさいね!」

「い、いやっ! そんなつもりじゃ……!」




 大きく鼻を鳴らしたクリスはうろたえている彼を見て気が晴れたのか、小さく笑う。




「……なんて、ね。いいの、ちゃんと補習で取り返すわ! ちなみにだけど、あなた筆記も実技も星で一番よ。実技は前回二位だったでしょ、カイに付き合った地獄の特訓の成果あったんじゃない? おめでとう、総合はやっぱり二位だけど相手がエルガじゃ仕方ないわ」

「……見て来てくれたの? ありがとう、クリス!」


 本当に嬉しそうに笑顔を返して来たルーカスは余りにも無邪気に見え、これで自分と同い年なのかと疑惑が浮かぶ。

 時折彼は本当に可愛らしい笑い方をするのだ。

 幼い顔立ちも相まって可愛いという表現が良く似合うのだが、体格は徐々にではあるが男性になりつつある。

 そのギャップに惹かれる女子の気持ちがなんとなく理解できる気がした。













 同じ頃、月組では結果を見るまで全身の震えが止まらなかったフルラがようやく安堵の涙を流していた。


「良かったぁあ……。前より順位も上がってるぅうう! エルガ君は相変わらず一位だけど……まだ起きて来ないのかなぁ……。教えてあげた方が…ううん、でも……うぅ……」

「おい、小さいの」

「はいぃぃい! あ、あの……ナバロ……君。おは、おはようございますっ」



 おどつきながら、上級生へ挨拶するように丁寧に答えた彼女の顔は朱に染まっていく。



「それはあいつの発音が悪いだけであだ名じゃないぞ。……おはよう。ミカイルはまだか?」



 ミカイル、と言われてフルラは固まってしまった。



 誰の事を聞いているのか、しかし見覚えのある名前だ。

 思い出そうと唸っている彼女に溜息をついて、訂正する。



「あの不動のミカイルに嫌味の一つでも言ってやろうかと思っただけだ。特に用があるわけじゃない」



 指差したのはフルラの後ろの順位表だった。

 見れば一位の横にエルガ・ミカイルとある。



「あああっ、エルガ君のファミリーネームだったんですかぁ……! ごめんなさい……、えと、多分まだ寝てる……かも? お部屋にはいると思うんです」

「わざわざ寝ているのを知っておきながら部屋に入った挙句、嫌味を言って来いと? そんな男に見えているのなら、心外だ」


 その言葉にまた焦り出した彼女に冗談だと言って、ウィンダムとロビーを出て行った。

 一人残されたフルラはせっかくなので、一位のエルガにおめでとうと言ってみようと彼が起きて来るのを待ってみることにした。











 そして今、太陽組のロビーではシェアトが思いの外結果が悪かったらしく、順位表の前で落ち込んでいる。


「シェーアート、面倒臭いなあ……。ねぇ、シェーアートってば」

「……やべぇ、これはやべぇぞ……。平均以下が三つもあるのはやべぇ……魔法律は分かる、だが他二つは陰謀か何かの間違いとしか思えねぇ……」

「実技は全科目一位なのに……筆記がもう息してないねこれ……」



 クリスと違い、寝ていた訳でもない彼は全力を出した結果なのだ。



 今後、もしかしたらシェアトがこの学校から欠けるかもしれないという予感がしているのは甲斐だけでなく、本人も同じようだ。


 それよりも今、この場所から彼を移動させる事の方が甲斐にとっては先決だった。

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