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第八十六話 頑張れ星組、負けるな月組

 一方で月組は、問題をすらすらと解いているフルラと誰よりも先に解答用紙を埋めると欠伸をしながら毛先を指に巻いているエルガがいた。

 見直しさえもしようとしない彼を見ても、教員は何も言わない。

 それもそのはず、月組の首席は彼であり、それは三組総合でも変わらないのだ。


 その様子が嫌でも目に入って来るビスタニアの顔には大きく面白くないと書いてある。

 だが首を振り、再び見直しに集中し出した。


 入学してからあの金髪には一度もテスト結果で勝てた試しがないのだ。

 いつも月組では二位、そして総合だとあの女々しいミルクティ色の頭の男にも抜かされ、三位になってしまっている。


 大して勉強をしていなそうなのもまた一段と腹立たしかったが、結局は自分の努力不足を思い知らされているのだ。

 しかし、今回こそはと意気込んで一つ一つ確認していった。


 エルガもビスタニアから向けられている敵意に気が付いてはいるが、それがまた心地良さそうに微笑み思考を巡らせている。


「(うん、フルラも順調そうだ。それにしても終わったら退室させてくれたらいいのに。あと半分以上もあるのか……カイが同じ教室なら何時間だって見つめていられるんだけど)」


 その陰湿な思念が届いたのか、悪寒を感じた甲斐は腕を擦りながら問題に取り組んでいく。


 さて、星組のいる東館ではクリスが早々に夢の世界に招待されているのを、斜め後ろに座っているルーカスが気付いたようだ。


「(あああ……ま、まずいよ。クリスってば、座ってから随分姿勢が悪いと思ってたけどあれ寝てるじゃないか……! どうにか起こしてあげないと……)」


 思い切ってクリスの椅子の脚を軽く蹴ってみたが、全く起きない。

 監督教員はシャンなので多少何かしても酷くは怒られないだろう。

 自己責任がモットーでもあるこの学校では、テスト中に寝ようが補習を受けようが自分の責任であり、他人に迷惑を掛けない限りは、たとえ成績不振で退学になろうとも何も言わない教員が多いのだ。


 小声でクリスを呼んでみると、若干反応がある。

 ほっとしたのもつかの間で、彼女の様子がおかしい。



「んん……、なぁにぃルーカスぅ……。あっ……そうよね、ごめんなさい……。私の事じゃないわよね……、 例の可愛いクリスさんを呼んだんでしょぉ」



 頭の中に、問いが浮かんだ。

 

 問一・例の可愛いクリスさんとは誰か。

 問二・彼女は起きているのだろうか。


 

 二番目の応えは分かる、彼女は完全に寝ぼけている。

 その証拠に今は微かに泣いているような声が聞こえ始めた。


 近くの席の生徒がなんとなく聞き耳を立てているような気がする。

 そしてクリスの口からは泣いている声と共に、小さく何かが聞こえて来る。



「ふふ……、でも二股なんてひど……ひいいいっ!? 痛い痛い!」



 自分の持っているペンの中で一番ペン先が鋭利な物を選び、斜め前の背中目掛けて全力で投げつける一連の流れに迷いは見られなかった。

 ペンが見事に的に突き刺さったのと、彼女が悲鳴を上げながら立ちがったのはほぼ同時だった気がする。



「クリスちゃん!? どうしたのよお~!?」



 ルーカスはシャンがこちらに来る前に即座にペンを魔法で回収し、ざわめく教室で何事も無かったかのように解答欄を埋めていった。

 だがその後も、彼女はどうも起きているのが難しいらしく何度か机に伏してはいたがルーカスの目には不思議と映っていないようだった。


 そしてクリスがしっかりと目が覚めたのは、終了のベルが鳴り響いた後となる。

 血の気の引いた顔で、後ろを振り返ると恨めしそうな声で嘆き悲しんでいた。

 


「どうして起こしてくれなかったのよ……! 補習決定だわ……。あんなに、あんなに今朝まで頑張っていたのに!」

「ごめん、僕も必死だったから気が付かなかったよ! いやあ、それにしてもよく眠れたみたいだね!」



 周囲によく聞こえるよう、声を張って言うルーカスに不審そうな目を向けたが次のテストまでの僅かな時間を無駄にしないようにとすぐに教科書を開いて向き直った。


 夕食で顔を合わせた六人は、勝者と敗者が一目で分かる顔つきをしていた。

 こうして初日が終了したが、残り二日間のテストを乗り切るまでは気が抜けない。



 それぞれの夜が更けていった。



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