第八十三話 愛されるのには才能が
休日だというのに知書室は座る席が無くなっていた。
騒ぎ過ぎないように気を使えるこの場所での勉強会は捗りそうだと予定していたのだが、やはりテストが近いと皆考えは同じようだ。
仕方なく六人は知書室を後にして月・太陽・星と各寮のロビーを見て回るがどこも様々な学年の男女が入り混じって座っており、空いている席など見つかりそうに無かった。
「あっちゃ~、出遅れたみたいだね……どうする?」
歩き回り疲れた甲斐が大きく上に両手を伸ばし、クリスの肩に振り下ろした。
「仕方ない、今日は各自で頑張りましょ? それか男女別で別れて部屋で集まればいいのよ! この大人数でいるから困るんだわ!」
「あ、それいいね。よし、じゃあ珍しく男女別にしようか。夕食は大体七時頃でいい?」
クリスは甲斐の両手を前へ引っ張りながら提案するとルーカスが同意する。
「君達はなんて残酷な発想をするんだい……!? カイと僕を引き離して……一体どういうつもりなのかお聞かせ願おうか!?」
「満場一致で勉強会のつもりだよ!? エルガこそどういうつもりでここに来ちゃったの!?」
大袈裟な身振りまで付け、反論するエルガにルーカスは即座に切り返す。
「く、クリス……残念だけどあたしもその案に反対だ……」
「カイまで!? やだ、どうしたのよ!?」
いつもの甲斐らしくない発言に、一同が注目する。
そしてとても言いにくそうに、何度も躊躇った後、覚悟を決めて口にした。
「だって男組の方にツートップが行っちゃうんだよ!? うちら女子バカトリオじゃどうにもならない事だってあるよ! ねぇ! ルーカスだけは! ルーカスだけは譲って貰えない!?」
「しっ、失礼ね! 私はそんなに成績悪くないわよ! 平均よ平均!」
「わ、私は科目によるかなぁ……。でも確かにその二人がいないと進むペースが違うよねぇ……」
啖呵を切るクリスも甲斐の言葉に心が揺れているのが分かる。
フルラも甲斐と同じ考えのようだ。
「お、落ち着いて……。僕らはどうしたって女子寮には入れないから……」
「ふふん、俺はどっちでもいいぜ?持つべき物は賢い友人だな~!」
シェアトはルーカスとエルガの肩に腕を回し、女子たちへ自慢している。
「カイが! 僕を! 欲している! この時がとうとう来てしまったのだね! いいだろう! 君が望むなら僕は性別など越えてみせるさ!」
「人の声のボリュームのスイッチって心臓にあったよね? ちょっと切ってくる」
「まぁ、カイいつの間に武器召喚まで出来るようになったのよ! 凄いじゃない!」
見事なナイフを両手に握った甲斐に、クリスが感動の声を上げた。
「……はぁ、それにしてもこうしている間にも時間が過ぎていくのよね……。どこかの教室を開けてもらうにも先生に許可を取らないといけないし、探しに行ってもいいけど休日だからいつもいる場所にいないかもしれないし……。面倒よねぇ……」
皆で勉強する場所を探すのがこんなに大変なのも、このグループが大所帯だからである。
これだけ大きな学校なのだ、どこか一つぐらいと思い皆が頭を捻っていると、ルーカスが声を上げた。
「どうしようか、いっそ食堂で勉強して怒られたら事情を話せばどこか開けてくれるんじゃないかな。若干ずるい気もするけど、外も寒いしこれ以上移動したくないよね」
「それ、いいかもだよぉ! お菓子も出るし……てへっ」
ようやく目的地が決まり、怒られるのを期待して、一行は歩き出した。
まだ少し昼を過ぎた辺りなのに、空は黒い雲が多く、建物の中にいると外の暗さが一層目立って見えた。
東間から食堂までの道は色とりどりの落ち葉が目を楽しませる。
前方で女子三名は楽しそうに綺麗な葉を探しながら見せ合っている。
「なぁ、あいつのセーターでかくねぇか?あれスカートの裾が見えるか見えないかのレベルだぞ」
今日から甲斐も遅れてセーターデビューである。
しかし女子で珍しいがボタンのデザインは脱ぎ着が面倒だと、すっぽりと被って着られるタイプを頼んだようだ。
そして色はクリーム色と中々可愛い選択なのだが、袖は一回分折ってるがそれでも爪の先が見えるほどであり、丈に関しては通常よりもかなりオーバーしている。
だが、その理由をエルガだけが知っていた。
以前にエルガからセーターを借りた際に、あの長さが手もお腹もとても温かかったのでサイズを教えて欲しいと昨日、寮に戻る前に言われていたのだ。
流石に下に何も履いていない様に見えてしまうので、一つ小さめのサイズを教えておいたが正解だったようだ。
「そうかい? でも、温かそうだよ。とても」
笑われてしまいそうな程に小さい、こんな秘密があったっていいじゃないか。