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第八十話 共存方法模索中

 急に目の前に現れた甲斐をシェアトは避けきれずに思い切りぶつかると、勢いが強すぎたせいで彼女を押し倒す形で倒れ込んだ。

 せめて床に打たないよう咄嗟に彼女の頭に手を添え、下敷きになった手の甲が打ち付けられた。


「先に謝る、ごめん」

「……いや、いい。見つかって良かった。俺の命の問題に比べたら打撲位なんてことねぇよ。戻って来てくれてありがとう! 本当にありがとうな!」


 遅刻は許されないそうなので今から授業に出る訳にもいかず、二人は冷えた空気の中を歩きながら冬期休暇の事を話していた。

 やはり授業時間なので外は風に合わせて落ちた葉が流される音と互いの声だけが聞こえていた。


「……行くのか? 日本か、俺は行った事ねぇから雰囲気も分かんねぇしな」

「うん、とりあえず行ってみないとかなって。怖いのはあたしの日本語とこっちの日本語が違ってたらどうしようてことかな」

「いや、それは問題ねぇぞ多分。ここの言語共通魔法は世界各国の言語にしか対応してねぇし、それこそこっちの世界に無いような言語ならお前の話してる事も分かんねぇはずだから」

「そっか、あたしは日本語しか話せないんだしじゃあ大丈夫だね。でも、ランランが頑張ってくれてるの知らなかったな……」


 そう言ったきり黙ってしまった甲斐を見れば、後ろからの風で髪の毛が舞い上がり、顔が隠れてしまった。

 日本へ向かう日数もまだ決まっていないというが、それよりも重要な事実を忘れかけていた。



 いつまでもこうして共にいられるわけじゃない。



 しかしそれはエルガもルーカスも同じだ。

 ここを卒業すれば皆別の道を歩む事になるのは当然だが、会おうと思えば会えるのだ。

 しかし、彼女は違う。

 この空の下からいなくなってしまう事、それが正しい道なのだ。


 そう考えると、どうしようもない気持ちになった。

 本来いるはずのない人物、それが彼女なのだ。

 この出会いは果たして本当に間違っているのか。




「何?そんな変な顔して」




 視線に気付いて笑う甲斐の顔にシェアトは手をあてる。

 予想外の反応に戸惑ったのか、甲斐の体が跳ねた。

 そして冷たくなった頬に手の熱が広がるのを黙って感じている彼女を見つめながら、ゆっくりと目線を合わせる。



「……変な顔はお前だろ、鼻縮んでんぞ」



 そう言ってぐっと親指で小さな鼻の頭を押すと、意地悪そうに口の端を上げて笑い、背伸びをした。

 そのまま深く息を吸いながら、止めどなく溢れそうになった言葉を一緒に体の奥に流し込む。

 無理にでもそうでもしないと、今にも彼女を困らせてしまいそうだった。


「あー! 全日本人を敵にしたな……! 生まれつきこうなんですううう」


 そしてこの一連の様子を見ていたのは、出題された問題を解き終えて暇を持て余していたエルガだった。

 三階の教室から授業中だというのに外にいる二人を見ても何の驚きも浮かべず、ただ、見つめていた。

 そして二人がまた歩き出したので、景色に目を移すと微笑みながら小さく呟いた。



 「それでこそ、君だよ」



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