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第七十八話 さよなら夏よ、久しぶりの秋だね

 校内の植物も季節によって色を変えていき、今はもう葉の残っている植物は少なくなっていた。

 甲斐が元々いた世界と同じで一年は十二か月ということも教えてもらい、カレンダーのスペルも知り、使いこなせるようにはなったが、やはり部屋のどこかにカレンダーを置きたいという甲斐の要望に応え、皆で月を分担して壁掛けのカレンダーを作成してくれた。

 気が付けばそのカレンダーの残り枚数はいつしか残り三枚となっていた。


 この三ヶ月の間に、甲斐はめきめきと実力を付けており、知識も吸収し続けていた。

 それは本人の実力以上に、意外ではあるが授業に取り組む姿勢は常に真面目であり、日々分からない事は教員や部門ごとに得意な友人に聞き理解し、魔法の練習も欠かさないという努力をしていたからでもある。

 元々勉強が嫌いではない甲斐は目前に迫った初めてのテストに向けて、更に気合を入れていた。


「おはよう、カイ。今日は一段と寒くない? お肌に悪いじゃない、ねぇ」

「おはよ、クリス。肌の調子、気にしたことない。 むしろこうも寒いと腹の調子の方が気がかり。あれ、もうセーター着てるんだ。あたしも頼んどこうかな」


 その話にフルラも一度跳ね、甲斐の前に回り込んだ。


「そうだよぅ、風邪ひくまえにね! あっ。じゃあ寝る前に寮に戻る時、忘れないように声かけようか?」


 クリスはジャケットの下に深緑のセーターを着ているようだ。

 袖からは指が半分ほど隠れる長さで袖が出ている。

 ふと前の世界の高校を思い出し、やはり女子高生というものは同じようなスタイルになっていくのかもしれないと思った。


 フルラは出会った当初よりも何事にも積極的になり、甲斐の陰に隠れることも少なくなった。

 しっかりと笑うことが増え、明るくなった彼女は男子生徒によく挨拶をされる程になっている。


 一方でシェアトはウィンダムとあの夜に言葉を交わして以来、ビスタニアに対する軽口が心なしか柔らかくなったようだ。

 本人いわく、嫌いな事に変わりはないそうだが、どんなに嫌な虫でも毎日見れば慣れると言い張っている。


「ふあぁぁ……、はよ。最近朝起きんの難しくてよ……」

「同感さ! 一昨日は僕を置いて時が先に行ってしまったしね! いやあ、参ったよ! 気が付けば夕暮れだった! 僕が一番美しくあれる時間を太陽が取り合っているのかな? やあやあ、おはよう! 今日も美しさが眩しいよカイ。全くそんなに輝いて僕をどうしようっていうんだい?」


 話の流れに乗って自然に甲斐の手をしたから取ったエルガ。

 しかしそんな奇行に甲斐は慣れている。


「……別にどうもこうもないけど、出来るのであれば粒子レベルまで粉砕したいかなぁ。ていうか一昨日朝いなかったのってあれ、寝坊だったんだ」

「おはよう。ああ、エルガは結構寝坊が多いんだよ。実家だと毎朝起こしてもらってたらしくて。一度シェアトと一緒に起こしに行ってあげたら味をしめたのかしばらく自力で起きなくなっちゃってさ……。だからもう放っておいてるんだよ」



 しかし、甲斐も朝起きるのは正直得意ではないので少しだけ気持ちが分かる気がした。



 困ったように笑うルーカスはやはりこのメンバーで一番常識人であり、非常に温和である。

 怒った場面は見たことも無いし、想像すらつかなかった。


 そして最近の発見としては、ルーカスは空いた時間があれば読書をしているということだ。

 知りたい事がたくさんあると言う彼に、勉強を教えてもらっている時に感じたのは知識の深さだった。

 何を聞いてもすぐに詳しい答えが返ってくるので、最近はテストに向けての勉強会を開くとすぐにルーカスへの質問大会へと変貌してしまいあまり進みが良くない。


 いつも癖一つ許さない黄金の髪の毛をなびかせているエルガは、ぶれずに甲斐に毎日この調子だ。

 いくら冷たくあしらわれても、めげることも無く、楽しそうにしている。

 彼について分かったのは非常に裕福な家庭だということと、自分の事を余り話したがらないといった所だ。


 だが、育ちの良さは仕草で垣間見え、マナーも良く、成績も常にトップであり、女性に対しての接し方が上手かった。

 そんな彼を狙っている女子からは頻繁に声をかけられてはいるが、三ヶ月ほど前から心に決めている女性がいるのだとその度繰り返していた。

 誰の事かはもう、聞くまでもないだろう。


「うへっくしょいちくしょい!」

「だあああなんか俺の皿に飛び込み参加してきたぞ汚ぇ! 女だったら手を当てるとかなんとかしやがれ!」

「寒いんじゃないのかい? これを着たまえ、遠慮はいらない。そしてお礼もいいさ、当然の事だ」


 すばやく自分の着ていたグレーのセーターを脱いで甲斐に渡し、何も言わせぬままウインクをして手を引いた。

 鼻をすすりながらクリスからティッシュを貰い、有難くセーターに袖を通すとまだ温かかった。



 しかし体格が違いすぎるので、袖から手が出てこない。



 仕方が無いので何度か折ってどうにか指を出し、鼻をかんだ。

 それどころか、立ち上がって気が付いたが甲斐のスカートすらもすっぽりと隠れてしまい、なんだか何も履いていないように見える。

 しかしもう月組の二人は移動してしまっており、続けてクリスとルーカスもまた昼にと言い残して若干笑いを堪えながら急いで行ってしまう。


 お礼すらも言えなかった、おかしな格好の甲斐の前には、指を差しながら一人笑い過ぎで涙目になっているシェアトだけが残っており、強めの電撃を何度か食らわせ、置き去りにすることにした。

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