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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第2章 学び生きていく
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第七十七話 お役に立ちたくて


 最初、三人はウィンダムの提案に気乗りしていないようだった。

 

 粘り強いウィンダムと話していく内に、これがビスタニアの罠だったとしてもこちらは三人で向こうは二人と考えた時に、邪魔をする甲斐さえいなければ特に問題も無さそうだという結論に至ったらしい。

 二人は早くクリスに謝罪するように勧めたが、本当に少しの時間だけという念押しに負けてシェアトを解放すると甲斐とフルラにここで待っているように告げ、何故かワイシャツ姿のウィンダムに付いて行ってしまった。



 そして一瞬振り返ったウィンダムは視線で甲斐に花壇を見るように合図を送ると、微笑んで向き直った。



「……なんだろうねぇ、喧嘩にならないといいけどぉ……。カイちゃん!? ここで待っててって……!」


 花壇を覗き込むと、赤い頭があった。

 最後まで見つからないように抵抗したのか、体育座りをして顔を伏せている。


「何してんの……この広い校内でこんなに遭遇するなんて……。 もしかしてナバロって……あたしのファンで追っかけなの……?」

「どこまでポジティブなんだ貴様! 面倒だから隠れていただけだ! あの黒髪がまた面倒事を引き起こしては堪らんからな!」


 思わず立ち上がってしまい、その剣幕にフルラは甲斐の後ろに隠れた。

 にんまりと笑う目の前の黒髪の女は、これもこれで面倒なのだが。



「元気そうで良かった。あ、そうだちょっと失礼」



 そう断ると、ビスタニアの腕を掴んで捲り上げた。

 両方に傷が無い事を確認すると今度は急にしゃがみ込むと、ビスタニアの履いているスラックスの裾をたくし上げた。

 これには流石に機敏に反応してかなり後ずさりする。


「なっ……、何をする!」

「やだ~お客様、何を考えてらっしゃるんですかあ~! ……ただ、傷が無いか確認したかっただけだよ。残ってなくて良かった良かった」


 膝に付いた土を払うと不敵に笑っている甲斐に、何故か悔しさが込み上げた。

 意外にも色々と考えている事も、いつも何処か余裕な所も、この女が現れてからどうにも今までの自分らしく振る舞えないのも、何より今まで出会った人間の誰よりも彼女から自由を感じる事も何故かとても悔しかった。


「それでナバロのお友達は何用なの?お姉さんに言ってみ?」

「……知らん。何がお姉さんだ、そもそも精神年齢が実年齢に追いついていないだろ」

「でも本当なのに……あたし今年で十八だも~ん」


 

 時が止まった。



「……なんだそのしょうもない嘘は。 子供でももっとましな嘘がつけるんじゃないか」

「いやいや本当に。あたし皆よりも年齢は一個上なんだよ。そんなに若々しく見える?」


 甲斐の発言にフルラはクリスの怒鳴り声よりも大きな声を上げた。




「そうなのおおおぉ!? ねぇえ! そうだったのぉおお!?」




 激しく甲斐を揺さぶって全力で驚くフルラを前にして、ビスタニアは固まってしまった。

 こんな年上が許されるのだろうか。

 一体どんな生き方をしたらこの人間が誕生したのだろう。

 そしてこの女には体の成長期が無かったのは見て分かるが、心の成長期も無かったのではないだろうか。


「み、認めん! 認めんぞ! そんな乱暴な事実があるか!」

「うそーん、 あたしからアダルトオーラ出てなかった? おかしいなあ。まあ、でも一つも二つも変わんないでしょ」

「……もういい、疲れた。もう話すな……。これ以上は俺の精神衛生上良くない気がする……。早く何処かへ行ってくれ……」

「そうしたいのは山々なんだけど、あの三人が帰って来ないと話進まないんだよね。クリスの前で土下座させるのが目的だし」


 和らいでいたビスタニアの雰囲気が、一気に張り詰めてしまったように感じた。

 思わず甲斐の腕を抱きしめたフルラを撫でながら、首を傾げて問いかける。


「ナバロ? どうかした?」

「……いや、あいつらもそろそろ戻って来るだろう。俺は寮に戻ると伝えてくれ。それと……俺はナヴァロだ。発音が違うぞ」


 それだけ言うと置かれたジャケットを手に持ち、振り返らずに戻ってしまった。

 四人が戻って来たのは本当にそのすぐ後で、爽やかな声でウィンダムはお礼を言うとビスタニアを追いかけ、寮へ向かって行った。


 ちなみに三人は彼と特に何を話した訳でもなく、せっかくなのでたまに話しかけてもいいかという事や是非仲良くしていきたいとやたらと熱心に言われたという。

 特に断る理由も無く、友好的に話を終えて戻ってきたようだ。


 この後、五人はクリスを部屋から出すのにも苦労した上に、部屋から出た途端から罵詈雑言とよく練られた嫌味が数時間に及ぶのだが、本人が口答えしないように耐えさせるのにも苦労をすることになるのをまだ知らなかった。

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