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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第2章 学び生きていく
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第七十四話 その数時間後

 目が覚めたのは不愉快な体の湿り気のせいだった。

 窓から朱色の光が部屋を包み込んでおり、壁に写る自分の影が妙に大きく思えた。

 知らない部屋にいるようで、嗅ぎなれない薬品の匂いとベッドの横にある棚全体には明るい色の花が咲き誇っている。

 体を起こし、両腕を見れば綺麗に傷が無くなっていた。

 焦げ臭さが鼻をかすめ、嫌でも目に入ってきた着ている制服の悲惨さのおかげで意識がはっきりと戻って来た。


 どうやらここは治癒室のようだ。

 いつの間に、そして誰に運ばれたのだろうか。


 意識を手放した後の事はどうにも思い出せないが、ひとまずベッドから立ち上がるも靴が無い。

 代わりに置いてあるのはつっかけて履ける柔らかい布の靴だった。

 どうしようもないのでそれを履いてドアを開くと、ロビーの椅子に座って俯いている人影がある。

 ドアの閉まる音に反応して身を起こしたのは、黒と金の二色のおかっぱ頭が目立っている。

 あの髪形はこの校舎内に一人しかいないだろう、ウィンダムだ。


「……ビスタニア! 良かった、気が付いて……! 腕の怪我はすぐにシャン先生が治してくれたみたいで…ああ、本当に綺麗に治ったんだね。まだ寝ててもいいんだよ」

「……授業はどうした?」


 他にうるさい奴らがいないかと警戒して見渡したが、治癒室のロビーは静まり返っていた。

 治癒室の教員も席を外しているのか、夕食に行っているのか姿が見えない。


「予想通りだよ。やっぱり長引いて、授業自体はさっき終わって戻って来たところなんだ。もう夕飯の時間だよ。それにしてもビスタニア達の組から救護要請が上がったのを見て焦ったよ。初めてじゃないか?君がこんなに怪我をするのは」

「ああ……、そんな時間まで俺は寝ていたんだな。まあ今回は組んだ相手が悪かったんだ」


 だがウィンダムは言葉通りの意味として取ってない。

 それもそうだろう、ビスタニア自身は必死だったので気が付いていないが、半ば強引に甲斐の手を引いてフィールドの奥へ向かうあの姿はかなり目立っていた。

 更に、そもそもウィンダムには勘違いされている状態なのだ。


「そうだよね……、でも無傷であの子は帰って来れたんだし良かったよ。男の勲章って奴じゃないか?カッコいいよ!」

「……俺達月組としての勲章、の間違いだろう。って、あの女は無傷なのか!?」


 聞き間違いだろうか、あれだけの戦闘で無傷はありえないだろう。


「またまた、素直じゃないなあ。そうだよ、見た感じかなり元気そうだったし。ずっと君の意識が無いのに焦ったのか大声で名前を連呼してたな。かなり離れた場所だったのに僕の所まで響いてたから、君に何かあったんだと気付けたし。それで救援要請にも気が付いた……っていうか。それに君を此処まで運んでくれたのも彼女なんだよ」

「……待て、なんだ?情報が多すぎる。 あの女が俺の名をあの間違えた発音で呼び続けたという奇行は良い。想像もついた。違う、問題は……その後だ。何? 運んできた? あいつが? シャン先生は何をしていたんだ? 一体……何をっ……!」



 ウィンダムから聞いた言葉を噛み締めるように復唱したせいで、事実を飲み込み切れていないビスタニアは不規則に震えている。



「シャン先生は……ええと、君達の相手だった男の子のほら……アーク君かな?かなり酷い顔になったみたいだから、その場で応急処置だけして残りは治癒室に任せるって事でおぶってたから」

「おぶっ……!? そうか……負傷者はおぶられるのか……! ……屈辱だ! ……くそっ、意識が無いのをいい事に……この俺が……女に……! しかもよりによってあの女におぶられただと!? あいつはどこだ……! 目撃者全員の記憶を消去させてもらう!」



 意識を無くした自分が悪いのは分かるのだが、今まで見て来た実戦の授業での負傷者はそもそもペア自体大体気の合う者と組んでいた時だ。

 そのおかげで万が一、何かが起きても相方に肩を貸している場面や、意識を無くしても別状が無ければ日陰に寝かせておくという非常に理想的な気遣いで成り立っていたのだ。



 それがどうだ、初めて授業で負傷をした今日に限って。



 担当教諭であるシャンがいたにも関わらず、同学年の女の背に乗って運ばれるなどという不運極まりない事態が意識の無い間に起こっていたらしい。

 これは屈辱以外の何物でもない。

 そんなビスタニアの怒りと憎しみの入り混じった感情を察したのか、慌てて訂正が入る。



「ああ、大丈夫! 違うよ、安心して! 言い方が悪かった。君はおぶられてなんかいないから!」



 その言葉に、ビスタニアの頭のてっぺんまで上った血液は音を立てて下がっていくようだった。



「……そうなのか? ……ははっ、まったく……。時折酷いぞ、ウィンダム。それにしてもあいつも肩を貸す事を選ぶとは中々機転が利くじゃないか」

「ははは、ごめんごめん。でもそれもハズレ。彼女あんなに細いのに君を横抱きにして誰かが何かを言う前に、走るシャン先生に付いて行ったんだ。あれには僕も驚いたさ。そうだ後で友人を助けてくれたお礼を言いに行かないと。……ちゃんと、紹介してくれるかい? あれ、ビスタニア? どうかしたのかい? ビスタニア!?」



 ビスタニアの耳には、もうそれ以上ウィンダムの言葉は何も入って来なかった。

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