第七十一話 絶体絶命
いつまでも沈黙していても何も進まない。
だが太陽組である甲斐が攻撃を担うしかない。
「行くわよ! 行けばいいんでしょ! 人殺しいいい祟ってやるからああああ!」
アイリスの攻撃の仕方は、こちらに放っては盾の中に戻るのを繰り返していた。
いつビスタニア達からの攻撃が来てもいいようにだろうが、甲斐は叫びながら飛び出すと敵陣へ一直線に向かって行った。
これにはビスタニアも目を見開き、慌てて援護する。
「おっ! 的が自分から来てくれるとやりやすいねぇ~!」
アイリスはわざとらしく額の上に手を当て、向かって来る甲斐を狙うようにもう片方の手で拳銃の形を作った。
「あの馬鹿……! 猛獣使いじゃないんだぞ俺は! フィラッフィー乗せてやれ!」
指示された声が上がるとフィラッフィーは速度を上げて甲斐に追いつき、駆ける足のタイミングを合わせ、足と地面の間に入り込むと掬い上げた。
その上で倒れ込むとまた柔らかい毛に包まれ、心地良く沈み込んだ体をどうにか起こし、周囲を見渡せば低空飛行をしたままアイリスとアークの元へ向かっていた。
続け様にビスタニアが狙いを定めて甲斐にサポート魔法をかける。
「汝は私の為・力を振るう・ならば私には何が出来よう」
右腕が光り出し、バングルが燃えるように赤くなった。
攻撃が酷くかわしながら進んでいるので、まだ相手まで距離があるので詠唱はしていないが手の平からは何度か炎が噴出していた。
「う~ん、あの召還妖精邪魔だなあ……。全っ然攻撃当たんないし。ビスタニア君、見かけの割に可愛いコ使うんだね。あー困った!このままじゃこっちまで来ちゃいそうだよね」
「問題ない、そのまま打ち続けろ。ハント・アイ」
乱暴に彼女の頭に置いた手を離すとアイリスの目が淡く発光している。
すると左右に動いているフィラッフィーの動きを正確に捉えられるようになり、再び撃ち込みを始めた。
「わわわ、なんか手が暴発し げほっおええ……口の中がじゃりじゃりする……。フィラッフィー大丈夫?」
真横に閃光が落ちて地面を巻き込み、砂埃が舞い上がった。
一度高度を上げて空に避難し、毛に付いた砂を払ってやると嬉しそうに身震いしている。
だが、気を抜いた瞬間に下から攻撃が放たれた。
そのせいでフィラッフィーがその衝撃でバランスを崩し、再び甲斐が空中に投げ出される。
共に落ちていく中でフィラッフィーの毛が焦げており、若干煙が上がっているのが見えた。
「ちょっと! しっかり! あんたって落ちてもふねふねだから大丈夫なの!?」
その声で気が付いたのか、全体的に形の締まりが無くなっていたフィラッフィーは球状に体を変えた。
そして甲斐の下に優しく入り込むと持ち上げ、そのままふらつきながらではあるが閃光を避け、アイリス達の真上に位置するポイントまで運んだ。
しかしそれが体力の限界だったようだ。
まるで空気が抜けるように徐々にしぼんでいき、甲斐の乗っている場所が段々と無くなってきている。
覚悟を決めて足に力を込めると上に跳び、踏み台となったフラッフィーを抱える形でアイリス達に向かって落ちていった。
「げっ、アーク上! 上! まっずいよ~コレ」
「何の為に盾があると思っているんだ。お前は撃墜しろ、絶好の機会だ」
盾を真上に展開し、縦型にすっぽり二人が収まったのを上から見ると本当に大きい傘のように見える。
アイリスの放つ火焔弾は次から次へと上空に向かって行く。
それよりも早く、ビスタニアが自分に展開していた盾の魔法を甲斐にかけるのをアイリスは見逃さなかった。
アイリスの腕が、真上から真横へと移動し、ビスタニアを捉える。
身を守る物が無くなった彼にも容赦なく火炎弾が向かっていく光景の直後、甲斐の目の前でも赤く燃える視界が邪魔をした。