第六十六話 手加減するのは難しい
周囲に比べ非常に盛り上がっているのは、六人でテーブルを囲んでいる甲斐達だった。
傷ついた頬はキティが即座に治癒魔法をかけ、痕も残っていないのだが切り落とされた髪はそのままだった。
昼食の際は各自授業の延長や移動があり、集まりが悪い。
なので、ようやく皆が揃って顔を合わせる事が出来たのは夕食となってしまった。
「魔法の初心者のカイに傷を付けられて戦意喪失したなんて、そんな可憐な乙女の様な心を君が持っていたのには驚いたよ! いやあ、愉快な話を聞かせてもらった! そしてユニークな髪形も案外様になっているじゃないか!」
エルガはここぞとばかりにシェアトをからかっていた。
「うるせえなあ、お前が立ち向かってみろよじゃあ! それに俺はカイに対してばかすか攻撃できる程、冷酷じゃないんだよ!」
「でも顔の傷が残らなくてよかったね。カイはまだ加減も分からないから、なんて油断してるからだよ。それにしても優秀だね、攻撃も防御もそんなにスムーズにいくなんて」
ルーカスの言葉にシェアトはむっとしてそっぽを向いてしまった。
いい機会だとばかりにクリスもシェアトへ苦言を呈す。
「そうね、やっぱりカイは編入して来ただけあるわ! 魔法が初心者なんて嘘なんじゃないの?それに比べて……はぁ。だらしないわね、攻撃専門なんて言い訳は実践じゃ通用しないわよ?」
「あああ、お前らの気持ちはよく分かった! 合同授業、覚悟しとけ! カイはお前らの思ってる何百倍もクレイジーだぞ! 特にクリスとフルラ! お前らで組む時は遺言でも残しといた方が自分の為だぞ!」
あまりに馬鹿にされるので憤慨したシェアトの言葉に、クリスは若干不安そうな顔で甲斐を見た。
当の本人はあれこれ料理を取っては食べながらも目移りしており、聞いているのかいないのか分からない。
合同授業では二つの組が共に授業を受ける場合と、三組が一つの授業を受ける場合もある。
その際に、自分の所属する組以外の者と組み、力を付ける科目もあるのだ。
クリスは今まで指定が無い限りティナ達と組んでいたのだが、次回からは自然と甲斐とフルラと組むことになるだろう。
編入して来たということはきっとそれなりに優秀なのだろうし、まさか、間違っても仲間をどうこうしたりといった事はないだろうと自分に言い聞かせながらも目の前のシェアトを見ていると不安でしかない。
「だ、大丈夫よ! カイだってそれまでには上達しているでしょうし、貴方こそ今回は髪で済んだけど今度は体が二分割されないように気を付けたらいいんじゃない!?」
「体が二分割かあ、なんか便利そうだね。よし、シェアト! あたし次は頑張ってみるよ!」
「お前は何故彷徨える魔に道を案内したんだ?なあ、俺に何か恨みでもあるのか? 言えよ……謝るから」
「か、カイちゃん……それは流石にキティ先生でも治してくれないと思うよぅ……」
今日一番輝く瞳をしている甲斐が言うと冗談に聞こえないので、一応フルラが釘を刺しておく。
真っ二つになどしてしまったら、事故ではなく完全に事件である。
標的にされている彼は完全に怯えきっており、クリスに対して口を返すどころか許しを請い始めている。
「それにしても、他の授業はどうだったんだい?今日は合同授業も無いし、カイと離ればなれの時間が長すぎて心が枯れてしまいそうだったよ……」
「おっ、枯れたらもう復活しないように根から燃やし尽くして!」
イチゴを刺したフォークを左右に振って甲斐が答える。
「あー……他は座学も多かったしなあ。意外にこいつ、真面目に聞いて板書もとって……ああ休み時間の度に俺を消し炭にしようとしてくるのには参ったけどな」
「なんて……なんって羨ましいんだい! 自慢かい!? そんなハッピーな学園ライフは聞きたくなかったよ!」
それぞれが口にする言葉の異常性に気付いていない所もまた問題だが、もう間に入るのも面倒になってしまっているルーカスとクリスの何も聞こえていないといったスタンスも問題だ。
どうやら甲斐の魔法学校での生活は順調にスタートしているようだ。