第五十五話 勝負あり
資料室と呼ばれるその中は思っていたよりも広く、正に資料だと言わんばかりの厚い本が天井まである棚に整列していた。
どこを見ても似たような棚と背表紙が並び、ストゥーが何やら探し物をしている間に動き回っているとどこから来たのかすらも分からなくなる。
ストゥーの立てる物音を頼りに再び舞い戻る、といったことを何度か繰り返してみたが細い腕のどこにその量の本を支える力があるのか不思議に思う程、本を引き出していく。
「よし……、お待たせトウドウさん。……そんな顔しないで、袋を用意してあげるから」
「大量に食材を買った時と似た気分になってます、それが全部あたしの中に入るのかという恐怖」
「入る入る、ちゃんと消化も出来るはずだから。ただ……食あたりにはご注意を」
古びたカウンターには簡素な椅子が一脚だけ置いてある。
いつもはここに誰かがいるのだろうか。
強烈な音と共にカウンターに持っていた甲斐の教材を置くと、埃が煙のように舞い上がった。
ストゥーは鼻歌交じりにどこかへ消えてしまったが、甲斐はうろつくのにも飽きたので一番上にあった教材を手に取りページをペラペラとめくっていく。
挿絵の一つも無い不愛想な教科書を手に取ってしまったようで、文字を読むのが苦手な甲斐はめくるのを止めて表紙を見る。
『魔法使用者・法定事項(改定)』とあり、どうやら魔法を使う者への法律が載っているもののようだ。
これを授業で使用するのか、自分で理解しろという事なのかは不明だが甲斐はそっと適当な棚へ差し込んだ。
次に手に取ったのは『全世界魔法協会認定・試験科目一覧』という名前を記入する箇所がある表紙が付いた冊子だった。
魔法協会という字面に思わず鼻で笑ってしまったが、中身を見ると細かい表で全てのページが埋められていた。
どうやら職業によってどの試験を受けたらいいのか、そしてその試験で大まかにどの分野が出るのかがまとめられており、それぞれに対策用の授業があるようでチェックボックスも付いている。
こんな冊子もあるという事は将来に必要な資格試験へ直結する授業が行われているのだろう。
そういえば統制機構が運営している学校なのだとホワイトレディが言っていたが、統制機構の実態が分からない。
この世界の魔法使い達の就職先が垣間見る事が出来るこの冊子は面白そうだと、積まれた本の隣へ置いて新しい教材を手に取って再び選別を始めた。
「待たせちゃったね。……おや?」
「はいはいどんどん入れていきましょう!」
減ったように感じた教材は手にしていたキャメルの色をした革のスクールバッグをもぎ取られ、仕舞われていく。
もしかしたら気のせいかもしれないが、彼女の調子を見ていると否定しきれない。
だが、彼女に聞いてもどうせ無駄だろう。
「君は自由な子なんだね、どうやら心配は無さそうだ」
「なんですか? 見てるだけなら手伝って下さいよ!」
まさかの注意を受けてしまい、肩をすくめてスクールバッグに教科書を詰めていく。
本来であればかなりの量を手で持って帰る事になるのだが、全てが鞄の中に納まってしまい、更に余裕まで出ている。
流石にこれはまずいと、普通の状態を説明し、自白を待ってみたが収納上手なのだと悪びれることなく言われ、溜息が零れ出た。