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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第2章 学び生きていく
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第五十三話 大人対こども

「じゃあ、覚悟を決めて行ってくるね。全身ブツブツになってもトモダチデイテネ」

「そ、即答は出来ねえ……。頑張れよ、とりあえず俺らは太陽の広間にいるから」


 冗談か本気か、甲斐の目は死んでいた。


「一人で大丈夫? やっぱり私も行きましょうか?」

「いや……むしろ代わりに行ってくれない……?」

「先生に何て言えばいいのか分からなくなるよぅ……」


 よほどストゥーに会うのが嫌らしく、うなだれたままの甲斐を皆心配そうに見送ろうとしている。


「僕が代わりに殺ってこようか!? 力の見せ所だね!」

「エルガ、穏便に。穏便にいこうね。ストゥー先生は先生だし、そんな変な事は無いから安心して行っておいでよ」

「楽しいランチは終わったかな? 楽しそうだね、さあトウドウさん行こうか」


 恨みがましい目で皆を見ながらストゥーに続いて食堂を出ると、ストゥーは明るい声で話しかけてくる。


「たった数日で友人があんなに出来たのかい? 素晴らしいね、人を集める才能があるのかもしれない」

「それはどうも……。あの、何処へ行くんですか?」

「ん? 東館だよ、教材は知書室に揃えてあるからね。……そのバングルは、魔力器かな?」


 ストゥーの左側を歩いている甲斐の右手首には大きな羽のバングルがシャツから見えている。

 思わずストゥーを見上げると、優しい笑顔を作って前を向いて言った。


「道中退屈させてはいけないから、君が天秤に何を掛けたか当てようか」


 その声は、先程までと違いどこか冷たさを含んでいた。

 返事をする前に、ストゥーはこちらを見ずに言い放つ。


「前の世界の家族の思い出、じゃないか?」


 返事をしなければならないのだろうか。

 ストゥーが何を思ってこんな事を言っているのか分からない。

 それを知ってどうしたいのだろう。


「その沈黙は正解ととってもいいかな。だからこんなにも元気にいられるんだろう。君は頭がいいね、何も持っていない自分が差し出せて今後に支障が無く、元いた世界自体の記憶を消さないようにした上で、ある程度の重みのある物を探したんだね。……あの天秤を前にして馬鹿な決断をしてしまう子もいるんだ」


 今後に支障が無く、の部分で語気を強めた気がした。

 先程の笑顔や握手の際の軽さが嘘のように感じるのは、まるで責められているような気分になっているからだろう。



 しかし、ストゥーの言う事は一々正しかった。



 この世界に来て、簡単には戻れないという事が事実として固められていく一方でどうしても頭をよぎっていたのは家族の事だった。


 心配しているに決まっている、携帯も靴も何もかもを置いて娘だけが忽然と消えたのだ。

 事件の可能性を考え、恐らく大変な事になっているだろう。

 そう思うと焦ってしまい、焦りは良い判断も結果も生まないはずだ。


 あの天秤を前にしたとき、家族の思い出を消してしまわないとこの先きっといつか自分が何か無茶をしてしまうのではないかという不安があった。


 トレントの宝物庫を出てから、随分と心が落ち着いたのを実感した。

 それと同時に、あまり思い出せないが家族への恋しさが消えたのだろうと自覚も芽生えた。

 父も母も顔も名前も思い出せるが、それだけだった。




 特別な感情は今は出て来ない。




「君は太陽組のようだけれど、その冷静な判断力は月組でも良かったかもしれないね。……一つ言っておくけれど、責めているんじゃないよ」


 黙ってしまった甲斐の目を見る彼は、眼鏡越しに真剣な瞳をしていた。


「本当に心配しているんだよ。何かを失くして平気な人間は世界が違っても、いないはずだからね」

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