第五十二話 問題教師
「そっれにしてもあいつら来ねえなあ……。お前呼びに行ったらどうだ?」
皆一時間程前から食堂でまだ何も手を付けずに甲斐とフルラを待っていた。
その中にいつも通りの大きな目をしたクリスもいた。
実はまだ少しティナ達と顔を合わせにくい為、太陽組の寮の傍で隠れて甲斐が起きて来るのを待っている時に先に下りて来たシェアトに捕まったのだ。
偶然だと言い張る彼女をシェアトはうさん臭そうに見てから、甲斐が徹夜明けだと説明して食堂へ連れて行ったのだ。
「だから、私最初から言ってたじゃないの! あら? カイとフルラだわ、良かった!」
「あれ、 主役が来るのを待っててくれたの?おはよう、皆」
食堂内は甲斐達のように遅れて来る者も多いようだが、教員達の席はまばらに埋まっている。
「私はたまたまよ! たまたまシェアトに捕まっちゃって! 強制的にここに連れて来られたっていうか!」
「意味不明な言い訳はいいよ……、クリス気持ち悪いよ……」
「なっ……!? カイ、本当なのよ!」
朝からテンションの高いクリスの横でまた一つ甲斐はあくびをした。
ルーカスはそわそわと落ち着きのないフルラにも優しく話しかける。
「おはようカイ、フルラ。よく眠れた?」
「お、おはよぅ……。うん、カイちゃんの部屋にお泊りしたんだよぉ」
「なんだって!? けしからん! なんという自慢なんだ! 事細かに説明する義務が君にはあるね!」
クリスに答えたはずなのだが、食いついたのはエルガだった。
目を白黒させていると甲斐が救出する。
「……もう死ねよ……。さ、お待たせお待たせ! いただきまーす」
「やあ。お食事中に失礼するよ、ご機嫌如何かな皆」
黒髪に短髪、そして黒い縁取りの大きい眼鏡をかけた若い男性がテーブルの空いた席に座った。
シックな色合いのセーターとシャツ、そして紺色のパンツを綺麗に着こなしている。
クリスの声がいつもよりも高くなったのをシェアトは吐きそう、といった顔をして聞いていた。
「やだ、ストゥー先生! こんにちは! どうなさったんですか!?」
眼鏡の奥で細まる目は薄い灰色で、長いまつ毛が眼鏡のレンズに擦っているようにも見える。
甲斐の向かいに座られたが、軽く首だけで会釈をするとどう取り分けても入り込んで来るサラダの豆を取り除き続けた。
「トウドウさんに教材を渡さなきゃならなくてね。やあ、トウドウさん。初めまして、ストゥー・フローレスだ。主に精神強化部門の授業を担当している、明日の授業でも会えるが一足早く自己紹介させてもらうよ」
「よろしくお願いします、教材かあ……。あの、あたしお金……」
「全てランフランク校長から聞いているよ。特別待遇だとね! 食べ終わったら一緒に行こうか、私もこれから食べ始めるから急がなくても結構だ。さて、邪魔して悪かったね」
ウィンクをしたが、無反応の甲斐にストゥーは握った手を何回か振ってから離すしかなかった。
そして再び教員席へと戻って行ったが、シェアトは星型のマシュマロをストゥーの方へ投げるジェスチャーをした。
「気持悪い野郎だな、なんだあいつ」
「本当だね……。あれ以上カイの手を握るのならば 彼の手を手首から切り落とすしか他ないな、と思っていたよ」
「馬鹿な事言わないでよ! ストゥー先生は大人の余裕があって素敵じゃないの! ねえ、カイ! やだ、貴女その手の湿疹どうしたの!?」
「……じんましんだよ…。これで二回目……」
強いストレスを感じたのだろう、甲斐のストゥーに握られた手は細かく腫れておりそれを目にしたクリスは流石に何も言えなくなり、避けてあったサラダの豆を納得いかないといった表情でフォークに突き刺した。