第五十一話 月と太陽、仲良くね
白いカーテンをしていたが、目を瞑っていても太陽の光が入り込んでくる。
布団を頭まで被り直して、その中で目を開ける。
全裸で寝ている自分と、足を挟んで纏わりついている体温の高い物体。
この二日間の出来事はやはり自分の頭がどうかしたわけではないようだ。
足をフルラからゆっくりと離して布団から出るも、時計が無いので何時か分からない。
そうしていても仕方がないのでクローゼットを開けると、噂通り新しい制服が掛けてあった。
二着あるのは、フルラの分だろうか。
どうやら面倒をかけたようだとなんとなく理解すると、下着を探すがどれも可愛い配色のものばかりで、モノトーンが好きな甲斐は頬が引きつった。
私服が無いのでシャツと短めの丈にしてもらったスカートを履いて、ネクタイを第二ボタンの辺りで結ぶ頃にはフルラが目を覚ましていた。
どうせ、私服があったとしてもこの学校ではまず着られないらしいのだが。
「あれぇ……おはようぅ……。今日も暑そうだねぇ……、夏も始まったばっかりだしねぇ……」
「そうなんだ? カレンダーのスペルだかも、教えてくれるって言ってたしルーカス達に聞かなくちゃ。ねえ、今って何時なの?」
「えっとぉ…わわ、寝すぎちゃったね……! もう一時過ぎてる!」
一度普通よりも深い瞬きをするとフルラは慌てて甲斐の隣に来て、着替え始める。
甲斐は適当に取った靴下が思いの外長く、膝を全て覆ってしまった。
シャツもピンクや水色、柄が入っていたりしていた物もあったので種類が豊富なようだ。
「今何で時間が分かったの? 勘とか言ったら海老の殻しか食わせない」
「身も食べたいよぅ……ハッ……しまった! うう、これは時計のスペル使ってるんだよぅ、必要な時に目を閉じれば今の時間が一瞬表示されるのぉ」
「えーなにそれ。あたしにもかけてよ、ずるい」
「後で教えてあげるよぅ! とりあえずお昼行かないと終わっちゃうぅう! カイちゃんあんまりこっち見ちゃだめぇえ! 目ぇ怖いよおおお瞬きどこ行っちゃったのぉお!?」
「ダブルでドけち野郎。はいはい、行こう行こう。フルラ、ジャケットも着てくの?」
「な、なんかシャツだけって不良っぽくないぃ?」
「よく分からん。脱げば脱ぐほど強くなるってこと? 最強は全裸? んんん……?」
「カイちゃん、錯乱しないで! いいもん着てくもん! さ、行こぉ」
バタバタと階段を駆け下りると、昨日は気にしていなかったが太陽組の広間は色々な武器や何に使うのか不明な道具があちこちに不規則に展示されており、椅子は全て肘かけが付いている。
壁紙は赤く、金色の線の先には男女の部屋に続く階段の間の壁に大きな太陽が描かれていた。
よく見ると壁のあちこちには深い傷が残っており、黒い文字で日付と名前が記されている。
通り過ぎる際に、何人かで集まっているのを見かけたが何をしているのか見ようとするとその部分だけ煙に包まれてしまい、分からなかった。
「ねえねえ、あの傷って何? あたしもちょっくら刻んできていい?」
「そんなに爪跡を残したいのぉ? あれは確か、チャレンジャーの証だとかなんとか聞いたことあるけどぉ……。太陽組に知り合いいなかったから分からないなぁ……」
「何にチャレンジすれば刻めるんだろう。よし、 あのうるさい馬鹿犬に聞いてみるか」
「えっ……それまさかシェアト君の事じゃないよね……?」
「合ってるけど、フルラもやっぱそう思ってたんだね」
「ちょっ……なんで走るのおおお! やめ、やめてぇええ言わないでえええぇ!」
フルラは運動が苦手だと思っていた。
だが、この瞬間彼女の中で眠っていた何かが目を覚ましたようで足の速い甲斐に追いつき、信じられない速度でひっ捕らえた。
直後には大きな舌打ちが聞こえたが、どうやら昼食には間に合いそうだ。