第四十八話 セクシーにはほど遠く
「何これすっげえ! フルラ、一緒に入ろう!」
「え、ええぇえ!? いいい一緒に!? いいよ、無理だよ、恥ずかしいよぅ!」
「そういう乙女な反応を望んでるわけじゃない。いいから脱げ」
「ご、ごめんなさい……。ちょ、ちょっとカイちゃんも脱がないと……あっ、脱ぐの早いねぇ! カイちゃん魔法使えるんじゃないの!?」
「こんなのスッで終わるでしょ。早くねー」
一つずつボタンを外すフルラを横目にそのままバスルームへ入ると体が少し湿り、開けている部屋からの空気が心地良い。
バングルは外れないのでそのまま入浴することにしたが、錆びはしないだろうか。
泡が浴槽から溢れんばかりに盛り上がっているのを楽しそうに手ですくいながら、シャワーを浴びる。
頭を洗いたいが、シャンプーが無い事に気付き、目を閉じたままフルラを呼ぶ。
「ねぇ! シャンプーとかってどうしたらいいのー」
「ちょ、ちょっと待ってぇ。……よい、しょっと、あっそのままそこにいてぇ」
まだ脱げていない様子だが、反響した言葉を信じて温かいお湯を浴びていると髪の毛に違和感を感じる。
触ってみるといつの間にかシャワーからは泡が出てきており、頭にはどんどん泡が降り積もっているようだ。
「なんだこれ……うわっフルラ! これどんだけ出て来るの! そんなにあたし汚い!? 汚い女なの!?」
「洗い終わったらお湯出て来るから大丈夫だよぅ。そのままいれば保湿されるよぅ……」
戸を閉める音と、フルラが後ろを通り過ぎていくのが分かる。
シャワーは一つしか無かったので、早く空けねばと甲斐は地肌を洗う手の速度を上げた。
ちょうどいい頃合いで洗い流されていくのが分かる。
「あ、本当だ。……あんた達これに慣れたら人間駄目になるよ……!」
「あはは、これはお手伝い天使達が全部屋の様子を見てタイミングを合わせてくれるから出来るだけだよぅ。私も最初びっくりしたもん」
「お手伝い天使達、こんなこき使ってたらいつか一揆起こすんじゃないの……。ふう……、フルラあんた体洗ってから入りなよ! 薄汚い雌犬が!」
「予想外の言われようだよぅぅ! だ、だってシャワー一つだし……それに私朝にちゃんと入ったしぃ…」
「いいからほら! そんなだから外国人はって銭湯で言われ…」
「セントー? なぁに、それぇ……。ほ、ほらほらカイちゃんも裸で威張ってないでおいでよぉ」
広めのバスタブに体を落とし込むが、甲斐は自分の迂闊さに反省していた。
銭湯は前の世界の言葉かもしれない、目の前にいるのがフルラだから良かった。
こちらにも日本はあるようだが、その日本に銭湯があるかどうかは分からない。
魔法の存在する状態での日本国内がどうなっているか、どんな文化が根付いているのかなんて甲斐の頭では想像が出来なかった。
余り迂闊な事は口にしない方がいいだろう、ランフランクだって異世界から来たと他言しないようにと言及していたのだから。
「なんか、照れちゃうねぇ。向かい合ってお風呂に入るなんて」
「そうだね、それにしてもちょうどいい温度だね。フルラ、普通に髪の毛お湯に入りまくってるけどいいの?」
「うあああ! ……もう、いいよぅ。後で乾かすもん……」
フルラの結われた髪の毛はほぼ大半の部分がお湯に浸っていたが、甲斐はタオルも何も持って入らなかったので髪の毛をバスタブの外に全て出していた。
フルラの肌はやはり日本人では白い方の甲斐よりも真っ白だった。
気弱そうな目は目尻に向かって下がっており、髪と同じ桃色の眉毛は常に困っているように見える。
フルラの声は高く、語尾がよく間延びする癖があるのが面白い。
じっと見ていると、フルラが何かに気が付いたように必死に何かを言って立ち上がった。
息を吸うと、鼻に酷い痛みが来た。
堪らず口から息を吸おうとするが、苦みと大量のお湯が喉へなだれ込み、目には何も映らなくなった。
ゆっくりと眠気に似たまどろみと胸の苦しさを感じながら、今さらではあるが溺れているのを実感した。