第四十二話 あの子は誰と仲が良くて
正当防衛だと言い張る甲斐の言い分通り、事の顛末を聞いていくと確かに一歩間違えたらフルラも甲斐も何をされていたのか分からない。
ティナ含む三人の女子達は今朝の出来事を根に持っていたのだろう。
甲斐に至ってはまだ魔法の使い方すらも知らないのにこうして目を離してしまったのは迂闊だった、とシェアトは思っていた。
校内での魔法の使用は禁止されておらず、ある程度自由に練習も出来る。
だが、それも生徒達の意識の高さと信頼があるからこそだ。
今回の事件が幸いにも大事にならなかったものの、もし教員の耳に入りでもしたら、規則が出来るどころか甲斐とフルラにも処分が下る恐れがある。
ティナが甲斐の脅しを受けて尚、全てを教員に話す勇気は恐らくないだろうが。
「そいつらの中にクリスはいなかったんだな?」
「うん、いなかったよ」
ルーカスは甲斐の返答にどこかほっとしたような表情を見せた。
「でもあの四人はいつも一緒だから、珍しいけどね。休みの今日なんて特に」
「彼女はある種、あのグループの制御役でもあるからね。抑えの利かない彼女達をいつも上手く扱っていたのはよく見かけたし。彼女がいれば、こんな事にもならなかっただろうね」
冷静な分析をするエルガの言葉に、皆黙ってしまう。
「朝、カイちゃんに怒られてから出てく時……酷い顔色だったよねぇ……」
フルラがぽつりとこぼした言葉で今朝の場面を思い出してみても、確かにその通りだった。
さっと顔色が変わり、憤慨して出て行った彼女達の後を追うように食堂を出たクリスはてっきりまた合流でもしたのだろうと特に気にも留めていなかった。
甲斐はこの感情は何か分からないままだった。
ティナ達への怒りは、本人を目の前にして馬鹿にした発言をする無礼さに、その心に腹が立った。
それが悪い事だと思っていないなら、正々堂々と反論してみればいいと思った。
ただあの中でクリスは、あの時彼女達と一緒になって何を言ったわけでもないがそれでも甲斐は許せなかった。
あの星空の下で見た彼女は、まるで夜空の一部の様に見える程綺麗で、人に対して見とれる事が本当にあるのだと、初めて知った瞬間だった。
堂々とした口調や立ち居振る舞い、自信のある笑顔に踊るような生命力を感じたが、見つめた瞳から強烈な哀愁を感じる何かがあった。
それすらも彼女を引き立たせている一つの要因に思えた。
しかし、陽の下で見た彼女はどうだろうか。
驚くほどに臆病で、自分は無関係だと言わんばかりの態度は、この年頃にありがちな只の平凡な一人の少女だった。
あの時のクリスの謝罪は悪いのは自分じゃないといった主張と共に、甲斐にもそれを理解するようにねだるような物に聞こえた。
あの夜の堂々とした彼女はそこにはいなかった。
しかし、彼女の本質はこうだったのだと納得も出来なかった。
八つ当たりにも似た怒りをぶつけてしまったような、後味の悪さは甲斐の心に残っている。
「でも、あたし達がどうこう考えても仕方ないんじゃないの。別に あのゴミ共の心配する義理もないし」
「カイ、一応同級生だからね。この先また同じような事が起きないとも限らないから僕らもしばらくは注意して見てるよ」
「口の悪さは俺以上だなお前……。ま、なんともなけりゃ食堂にいるだろ」
食堂に入ると朝の静かな状態が嘘のように賑わっていた。
入り口付近のテーブルは埋まってしまっており、奥に入って行くと教員達の側になるテーブルはどこも空きがあった。
やはり食事時とはいえ、生徒達からすれば気になるのだろうか。
シェアトが一番近くにあった席に腰を下ろすと、皆それに続いて横に座っていく。
フルラは椅子を甲斐の方に寄せてから座り、甲斐に髪の毛を大人しく編み込まれていた。
ルーカスは周囲を見回して問題の女子達を探したが、誰一人今の所見つけられずにいた。