第四十一話 一件落着
口を何度か開閉させてから、ルーカスは震える声で問いかけた。
「か、カイ……? これは……一体……?」
「流石はカイだね! 女王君臨かな!?」
エルガの浮かれた調子は、ここには似合わない。
甲斐は不敵に笑うと、人の上に座ったまま答えた。
「これ? 人に対する態度の躾も兼ねての ……謝罪?」
「な、成る程なあ……ってなるか! それにお前、キャットファイトにしては圧倒的すぎるだろ! 一人は椅子、一人はひれ伏して、一人は瀕死てもう何事なんだよ!」
「まあ、実力の違い? それにこれはひれ伏してるんじゃなくて 、日本の最上級の謝罪のポーズなの。土下座っていうんだよ。さて、とりあえずもういいかな、フルラ?」
「わわわ私の命令みたいに聞こえるでしょおおお! やめてようお願いだからやめてよう」
甲斐が椅子にされていたティナから下りると、腕が限界だったのか乱れた息のままその場に崩れ落ちた。
土下座をしていたエミリアはまだ顔を上げず、シェアトが肩を叩く。
「お、おい……もういいってよ……ヒッ!?」
「ごめんなさいフルラ様すみませんでした私達が悪かったですゴミのような存在です許して下さい燃やさないでください助けてください申し訳ありませんでした空気を吸ってしまってすみません」
顔を上げてもまだ小さな声で謝罪し続けるエミリアにシェアトは思い切り体を引いた。
焦点の合わない目をしていたが、甲斐を見た途端顔を歪めてまた土下座のポーズへ戻ってしまった。
「せっ、先生方に言うわ……。こんな事、許されると思わないでね!」
「煽るねえ~! こっちがこれで許してあげようってなってるのに? 別に良いけど、その先の未来に笑える日が来ると思うなよ。」
ティナはしばらく甲斐と睨み合いをしながら黙った後、怯えきったエミリアを無理矢理立たせ、倒れているアデラを抱きかかえると今度はこちらを一切見ることなく、エミリアの腕を引いて荒々しく出て行った。
「怪我はないかい? カイは僕と同じ、いや……それ以上に妬まれるほど美しいから仕方ないのかもしれないけれど、心配だね」
「なんか今更どれがって言い辛いけど、不愉快な一言が多いよね。あたしもフルラも無傷だよ、ね?」
「そ、そうだねぇ……カイちゃんのおかげだよう……。ねえ、最初から起きてたってさっき言ってたけどぉ…い、いつからぁ…?」
「フルラが自分で運ぶって言ってくれてからずっと。むしろここに着いてからも寝てはいないよ。ちょっと保護者の気持ちで見守る事に徹してただけで」
「お前、頼むぞ……! 人を殺すとこの世界は罪になるからな?な?」
青ざめつつ、子供の過ちを正そうとする父親のように甲斐の肩を掴み、何度も揺すり、シェアトは言い聞かせる。
「あたしのとこも罪だったよ? 何、いきなり」
もしかしたら甲斐のいた世界では無法地帯だったのかと思い、シェアトは甲斐に耳打ちをして念を押すが、どうやら認識としては同じようだ。
ルーカスは甲斐の破天荒ぶりにようやく整理ができたようで、今度はフルラの持っている大鎌に興味を示している。
「これ、フルラが召還したの? 凄いね、相当練習したんじゃない?」
「あ、え、あの、はいぃ。えと、休み時間もいつも一人だったから、あの」
「でも本当に凄いよ、僕も頑張らないと。フルラにも負けないからね……って、もう負けてるか」
自分の言葉に苦笑するルーカスに、フルラは見える部分が全て赤く染まってしまい、もう言葉になっていなかった。
エルガが紙袋からお菓子を広げると皆それぞれ椅子を持ち寄り、甲斐から事情聴取の時間を取ることにしたようだ。
甲斐の眠気もひと暴れしたおかげで覚め、フルラは全員に褒められ続け、爆発寸前のような色になった頃には夕食の頃合いとなっていた。