第四十話 女王降臨
白い陽の光を浴びながら、思い思いに過ごしている生徒達を見てシェアトは大きな欠伸が出た。
お菓子やサンドイッチを手伝い天使に小分けしてもらった紙袋を下げて、三人は歩いて行く。
昼食を食べていない甲斐達に分かる様に、東館の戸棚にでも入れておくつもりだったがシェアトは自分の好物を幾つも入れ込んでいたのを見ると、どうやら後で食べる気らしい。
昼間に咲く植物が自らの香りを主張しており、緑の中の道を歩いて東館に向かう中で昼食後ということもあって教本を顔に乗せてベンチで昼寝をしている者もいる。
「あー腹いっぱいだなあ。なんか食ったら眠くなってきた」
シェアトは呑気に欠伸をすると、思い切り腕を上に伸ばした。
「シェアトは戻って寝る? 良ければ僕とエルガで様子見してくるけど」
「そうだね、お邪魔虫は少ない方がいいよ! ルーカス、遠慮なく君も寝てくれたまえ! 是非!」
エルガのうきうきとした口調と笑顔に、シェアトは途端に顔をしかめ、睨みつけた。
「うるせえよ、エルガと二人じゃルーカスが疲れるだろ。それにもう昼過ぎだぜ? ここで寝たら絶対変な時間に目ぇ覚めるし。それにしても、ルーカスは全然眠くなさそうだな」
「ああ……よく本読んでて気づいたら朝、とかあるから慣れてるからかな? カイ達、無事に着いたかなあ」
「ルーカス、 君がシェアトの言葉を否定しないのは他意は無いと信じているよ!」
「ああもう、うるせえな!」
三人が階段を二度折り返すと、もはやロビーのあるフロアに着いた。
「おっ、今日は階段短いな。着いたら眠気覚ましにコーヒーでも飲もうぜ」
「いいね、お茶菓子も幾つかあるしカイ達ももう寝てるだろうからちょっと食べちゃおうか?」
西洋甲冑にそれぞれ声をかけて中へ入ると、先頭にいたシェアトは何かを踏んだ気がした。
足元を見るとそれは、信じがたいが女子生徒のようだ。
咄嗟に確認した髪の毛の長さは非常に短いので甲斐が行き倒れている訳ではないようだ。
「うお!? なんだ!? おい……大丈夫か!?」
「どうしたの……わっ。ち、血が……一体何事…… カイだ」
「おや、本当だ」
「ああ? 何言ってんだよ、こいつあれだろ! 朝の女だろうが……カ……イ……?」
倒れていたアデラを床に膝をついて仰向けにさせていたが、ルーカスとエルガが見ている先を見れば開いた口が塞がらなくなった。
少し離れた場所には今朝、甲斐に押し倒されていたであろう少女が四つん這いになり、後ろ姿しか見えないが長い黒髪の少女の椅子となっている。
そしてその横には物騒な武器を持ったフルラがおどおどしながら立っていた。
あんな事をするのはそもそも甲斐しかいないのだ。
ルーカスとシェアトの声に気付いたのか、こちらを振り向いて笑う彼女は喜んでいいのか悲しんでいいのか分からないが、間違いなく甲斐だった。
「やっほー。あ、食料持って来てくれたの?」
彼女は女王、そんな単語が三人の頭に浮かんだ。
甲斐の椅子は首を動かしてこちらを見ると、悲鳴を上げて頭をがっくりと下げた切り何も言わなくなってしまった。
そしてもう一つ、気付いてしまったのは甲斐の前には頭と手を床に擦りつけてる女子生徒がいるという知りたくなかった事実である。
ルーカスの手から、紙袋が落ちた。