第三話 赤い貴方
ルーカスの静止を振り切り、駆け出した甲斐はとりあえず一階まで辿り着いた。
適当に歩いて行けば玄関はどこかにあるだろう。
「(これは夢なんだろうか。何がどうしたらこんなことになるんだろう。魔法の学校なんだろうか。でもそれならそれで、あの貧弱野郎も魔法であたしを引き上げたっていいのに)」
ここでようやく、甲斐は冷静になり始めた。
「(やっぱりからかわれた……? ……だとしたら腕の数本へし折るけど。二本しか無いから回復するたびに折るけど。それにしてもすごい広いな……。金持ち学校なんだろうか、ちょっとすり寄ればあれだな。すーぐ金の束とかくれるんだな)」
金持ちに対しての偏見を頭の中で充満させながら、出口を探す。
窓から出ようかと考えてはみたが、窓自体が非常に大きく、そもそも高い場所にあるので、背の低い甲斐では届かないだろう。
上から降り注ぐ日差しが白い模様となり、黒い床を照らしている。
照らされている場所を通り過ぎていく度、一瞬温かさを感じてはまた冷えた。
「(流石に裸足で歩き回ってると足が冷たいな。あの穴の中が足湯だったらよかったのに。気の利かねえ穴だな、ったく。まずは早いとこ外に出てここがどこなのか確認しないと)」
ルーカスに玄関まで連れて来て貰えば良かったのかもしれないが、あのまま一緒に行動する内にボロが出て部外者だと発覚してしまいそうだ。
そうなれば、どうなるのかが分からない。
もしも本当に魔法が使える者がいるのならば、使えない自分に対してどういった反応になるのかを考えてみたが、想像力の乏しさのせいなのかどうしても一か八かの勝負にしかならない。
いや、魔法云々を抜きにしたところで学校に入り込んだ不審者であることに変わりはないのだ。
「(ここから歩いて帰れる距離だといいんだけどたぶんそうもいかないよなあ……近所にこんなに大きな建物無かったし。タクシーだとどの位かかるんだろ。あ、しまった。ルーカスに携帯借りれば良かった……! むしろそれが一番早いんじゃないの! あたしのバカバカ! おドジ! でもそこが可愛い18歳!)」
「……はぁ!?」
後ろから大きな声が響き、もしや心の声が聞こえたのではと思い、振り返った。
そこには見事な真紅の髪を左右不揃いの髪型にした少年が顔を引きつらせている。
小奇麗に着こなされた制服のネクタイとジャケットに施されている銀の刺繍は、三日月のモチーフだった。
ルーカスと同じ服を上下とも着ている所を見るとやはりここは学校のようだ。
少し離れているこの距離からも分かる赤眼と、右側が長くフェイスラインにそっているが左側は目の辺りで切れている独特の髪型。
だが、そんな一見珍しい風貌の少年よりも、彼が何故引きつった顔をしているのかよりも、甲斐の頭は全く別の事でいっぱいだった。
「( みみみみみ見つかったーーー! これはもう、出方次第では消される前に消すしかないかもしれない……!)」