番外編:小ネタ集①
※日常会話と共に、本編では書けなかった素朴な疑問とか下らない小ネタ※
※全く読まなくても大丈夫です※
「ねぇカイ、思うんだけど日本ってアニメとかマンガが有名じゃない? カイは何が好きなの? フェダインに入る前に流行ってたものとかはなんだった?」
恐らくクリスが口にしたのは純粋な疑問だったのだろう。
日本という異国に対する興味。
そしてクリスはとても流行に敏感である。
甲斐を凍り付かせるには十分な一撃だった。
「(知るか! こっちの日本で流行ってる物とか逆に教えて欲しいわ!)えー……? なんだろう……。クリスごめん、あたしあんまり漫画もアニメも見ないんだ」
へらへらと笑ってごまかそうとしたが、クリスもクリスで一向に引かない。
漫画もアニメも見ない日本人を信じられないとでもいうように、大げさに驚いてみせる。
「そうなの!? だって日本って言ったらオタク文化でしょう!? ま、まあワビサビとかそういう大切な文化もあるでしょうけど……。世界中で大ヒットなんてざらじゃない! ほら、なんて言ったかしらあの…… 何故か下半身の服が脱げないバトル漫画……」
「( 全部そうだよ! いやでしょ少年誌で全裸の男同士でバトルしてたら! どっちのバトルだよってなっちゃうだろ! ……これは別に声に出しても良かったのかな……? でもこれツッコんじゃうと話が広がっちゃう……)よ、よく分かんないな……。クリスって漫画とかアニメ見るんだね、意外」
どうにか話をそらし、かつ、クリスから少しでもこの世界で話題となっている日本のサブカルチャーの知識を吸収しようという算段だ。
「そうねぇ……、絵柄が日本のは可愛くて見やすいから……。でもそこまで詳しくないし、面白い物があるなら知りたいなって思ったのよ。卒業したらテレビもあるし、流行っている物もこの三年で大分変わったみたいだから今の内に情報収集しておかないとね」
「確かー……何かを集めるんじゃなかったかなぁ? ……うんとぉ、願いをかなえる為のぉ……」
これまで黙っていたフルラが思い出そうと頭を左右に振っている。
「チィイッ! このぴょんぴょんがっ! (あれかな……? あれで合ってるのかな…? 流石に国民的漫画を知らない方が変か……言ってもいいのかな……)」
「なっ、なに!? なんで今私口汚く罵られたのぉ!?」
日本人ではないフルラが知っているのであれば、当然甲斐が知っていないとおかしいだろう。
クリスが話を振ってくるのではないか。
嫌な予感がする。
彼女の口元の動きがスローモーションに見えた。
「……思い出したわ! 金の延べ棒を集めるのよね! 七本!」
「……え?」
「それで億万長者になりたいんだけどライバル達が巧みに刺客を送り込んで来るからそこで毎回熱いバトルが生まれるのよね!」
「そうだ~! あ~すっきりしたぁ~!」
「あっ、ごめん。 マジで知らなかったわ。そんな『目指せ! 成金!』みたいな金主体で動いてる主人公に感情移入しにくいわ」
「ねーねーナバローナバロー」
「どうした、暇なのか。暇なんだろうな」
「あたしはいつも暇だよ、忙しいなんて生まれてこの方思った事もない。……ナバロのフラッフィーちゃんってどこ行ったの? 使い終わったらポイなの?」
少し前から気になっていた。
あれだけ実戦練習の際に助けてくれた、何かはよく分からないふわふわとした生き物『フラッフィー』。
校内ではビスタニアと一緒にいるところなど見たことがないし、そもそも実戦練習が行われても召喚しない時のほうが多いのだ。
「いや、召還契約を結んでいるから呼び出そうと思えば呼び出せるが……。あいつもあいつで生活しているんだから、不用意に呼び出しても悪いだろう」
「あっ……雇用主と従業員みたいな感じなんだ……。あたしの思ってた召喚獣の感じと違う……」
急にシビアな現実を突きつけられ、甲斐は動揺している。
「簡単に言うと待機状態といったところだな」
「確かに呼び出されてバイト行ったら特にやる事も無い上に、対して仲良くも無いある程度の壁と距離のある雇用主から顔を見たくてとか言われた時には胃液を吐き切るまで殴りたくなるもんね」
「そこまでドライな関係性ではない。もう少しウェットにだな……その目を止めろ! 別に悲しい事でもなんでもないぞ! 聞け!」
「シェアトの好きな女の子のタイプってカイがストライクなの?」
ルーカスは読書が終わったついでにシェアトに話しかけた。
突然話を振られたシェアトは怪訝そうな顔をしたが、真面目に考えているようだ。
「あん? ……そうだなあ、あいつは乳ねぇしな……。欲を言うならもう少し欲しいぜ」
「そうなの?」
理想の女性、という意味で考えているのかシェアトはまだ語っている。
「背は俺より小さきゃなんだっていいけど。性格はやっぱ女っぽいのは駄目だな。でも髪は長い方が好きだな。ショートヘアは色気がな……って、ルーカスはどうなんだよ?」
「僕かい? ……タイプって考えた事無いけど、クリスは可愛いよ。真っ赤になって口では反抗する癖に抵抗する力は弱いところとかね」
一気にシェアトの顔が赤くなった。
通りすがりのウィンダムが話に入り込む。
「それ分かるなあ。フルラちゃんは大人しく見えて、この前なんて見た事無いような冷たい目をして僕と話してた女子に大鎌を首元にあてたんだよ! ゾクゾクするよねぇ。そんな強気な彼女を征服していくのが」
「へえ、それはいいね! なんだかんだ力の差があるのを分かっているのかいないのか……。ふふ、躾も悦ばれるとやり甲斐もあるっていうか」
「あ、どうぞ。そのままお話をお続け下さい。ボクはその、ちょっとまだレベルが足りませんのではい」
「誰の髪の毛よこれは!? 長い金髪! ブロンドの女と浮気したのね!? 連れてきなさい今すぐここに! 何よ、連絡先位知ってるんでしょう!?」
クリスはとうとう胸ぐらを掴み、引き寄せた。
怒鳴る顔は蒸気している。
「お、落ち着いて……! 違うよ、誤解なんだ……! ほら、座って!」
弱弱しい口調で目を泳がせているのは、ルーカス…ではなく甲斐だった。
「あーら! そう! 貴方がその気ならいいわ! 細胞レベルまでこの髪の毛を鑑定してこっちで見つけ出すだけよ! ……せいぜいブロンド美女の姿を思い出しておきなさい! 二度とその姿を見る事は出来ないんだからね!」
「ああーっ彼女をホルマリン漬けにしないでくれぇ~!」
「……二人で何してるの……? ロビーの外まで聞こえてたけど……」
知書室から戻ってきたルーカスがあまり聞きたくなさそうに尋ねた。
「エルガの髪の毛を使って浮気の証拠を見つけた時のシュミレーション。あたしがルーカス役なの」
誇らしげに言う甲斐と、彼女の肩を抱いて心底楽しそうに笑っているのはエルガだった。
「ははは! 君も中々大変だね! 僕の貴重なDNAサンプルがカイの役に立つならと思って献上したのさ!」
「僕、疲れてるのかな。君達が一体何を言ってるのか分からないんだ……」