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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第1章 君に出会って
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第三十七話 守りたいものがあるんだ

 フルラが引きずるように甲斐を抱えて階段を上りきると、西洋甲冑達はすぐに扉を開いた。


「あり、ありがと……ござい、ますっ。よいしょおっ!」


 とうとう甲斐は自分の足で歩く事を放棄し、両腕をフルラに持たれ、引きずられる形になった。

 そのまま入り口のドアを体ごと押して入っていく。

 中に甲斐の体を引いて入れると、気が抜けたのかその場に座り込んでしまった。


「ふあ……はあ……はああ。着いた……着いたあ……」


 息を整えながら、寝転がっている甲斐のスカートを手で直していると背後の気配に気が付いた。

 見れば今朝食堂甲斐に組み伏せられた少女とその仲間が、二人を上から下まで舐めるように目を這わせている。

 フルラの呼吸音が状況を理解すると、一瞬停止した。


 巻き髪の少女は星組、おかっぱの少女は月組、ベリーショートの少女は太陽組の刺繍がある。

 クリスはこの場にいないようだ。

 気の強さと相まっているのは機嫌の悪さだろう、巻き髪の少女が吐き捨てるように話す。



「何よ!? ああ、喋れないんだっけ?」



 ベリーショートの少女の方が洞察力があるらしい。



「ねえ、あれ……あいつじゃない?」



 おかっぱの少女が指差したのは、床にうつ伏せで寝息を立てている甲斐だった。

 顔は床に伏せてはいるが、床に広がる長い黒髪といつも一人だったフルラが連れて来た事で察したのだろう。

 その声に素早くフルラは横にいる甲斐の前へと出た。



「ねえトマト、そいつさっきの女でしょ? 何、気絶してんの?」



 何か言わないと、そうは思っているが口から言葉が出て来ない。

 ひしひしと感じるのは、このままだと余り良くない事になるだろうという予感だ。

 ベリーショートの少女を無視する形となってしまった。

 次に口を開いたのは巻き髪の少女だった。



「人に掴みかかるとか、親からどういう教育受けてんのって感じ。ほら邪魔、ねえ、魔法の練習台出来たよ~!」



 無邪気に笑う声と対照的に、三人の女子の笑顔は歪んでいた。

 ベリーショートの少女は椅子から立ち上がると巻き髪の少女と一緒に二人を見下ろした。


「ねえ、邪魔だって言ってんの。聞こえてますかあ?」

「も、ももぅ行きます……から……」


 甲斐の腕を肩に回して膝に力を込めて立ち上がると、三人は吹き出した。


「ももももう行きますからぁ~だって! ねえ、あんただいじょぶ? 滑舌悪いの?」

「あっはは! ヤバぁ! あんま真似するとどもりが移るよ、ティナ!」


 ティナと呼ばれたのは綺麗な巻き髪の、あの少女だった。

 

「ほんとウケる! あ、ねえトマトだよ! ほら! まっかっか!」



 こうしてフルラが人に笑われるのは、いつもの事だった。



 話す度に、誰かと目が合う度に顔が熱くなる。

 何か言わないとと思うのだが、何を言えばいいのか分からなくなって口の中が乾いてしまう。

 自分の舌が、自分の言葉の邪魔をする。

 そうしている内に考えがまとまらず、それがまた周囲の笑いに変わってしまう。

 喉が狭くなるようで息苦しい。


 この学校に来てからも自分はやはり変わらなかったが、優しい人が多かった。

 笑う人も少なかったし、こうして馬鹿にする人はもっと少なかった。

 それに甘えたのも確かだった。

 やはり人と関わるのは苦手だったし自分の意見など伝わらなくても不便じゃなかった。


 しかし十七年間の全てが変わったのは今朝、ほんの数時間前だった。

 甲斐は自分の意見を聞いてくれた。

 変わろうとした自分を笑わずにいてくれた。

 隣にこんなにも長く誰かがいて、一緒に何かをするなんて今までに無かった。

 もっと甲斐と話したい、そんな風に誰かに対して思えたのは自分自身でも驚くべき変化だった。


 だが今、大切な人が危ないのは自分を守ってくれたからだ。

 今朝だって立ち上がる勇気の無い自分に嫌気がした。

 覚悟を決めるしかない、今は自分しかいないのだから甲斐を守らないといけない。


 フルラは甲斐を再び床に下ろすと、下を向いたまま深く息を吸うと両方の手の平を体の前で床に向ける。


「れっ、練習台ならっ……私がなります……。なりますから……!」


 フルラの周りから放電により空気が弾ける音が続き、一際大きい音が鳴ると手には両方の先にそれぞれ鎌の刃が逆向きに付いている大鎌が握られていた。

 柄はしなやかな木で作られているようで、フルラの手の平では滑り止めの役割をしているのか小さな閃光が常にあちこちで光っている。

 ティナ含む三名は、放電のせいで髪の毛が膨らみ切っていたが目は大鎌に釘付けになっていた。


「っあ、あの、かっかか髪の毛…縛らないと……その、す、すみませ……! あの、私だから結んでっ……」

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