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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第15章 さようならの準備
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第三百六十九話 欠けた一人

 甲斐に興奮して倒れたフルラをクリスが気付けし、汚れた顔を手早く直してもらっている。

 終わると即座にフルラは甲斐に抱き付いた。


 小さなフルラは無理のない五センチヒールのオープントゥのパンプスだ。

 淡いピンクの靴にはショッキングピンクの大きなリボンが付いており、覗く爪も赤い下地に白のドット柄になっていた。


 クリーム色をしたノンスリーブのワンピース型のドレスは膝よりも少し短く、裾のレースは白色で花模様があしらわれている。

 膨らんだスカートの境目にあるウエストの辺りには巻き付く形で綺麗な形のリボンが付いており、彼女のイメージ通りといった所だ。


 ネックレスはワンポイントのピンクパールが王冠の形の金具に止められ、上品に輝いている。

 トレードマークであるパステルカラーのピンクの髪の毛はおさげではなく、解かれており、毛先を巻いてふんわりと広げてあった。


「童話のお姫様みたいだね。可愛い可愛い。こりゃ今夜は帰れないわ」


 頭を撫でて褒めてやると、フルラはとろけてしまいそうな笑顔で更に甲斐に密着する。

 あまり気にしていない甲斐とは裏腹にシェアトがフルラの両脇を抱えて剥がした。


「いい加減に離れろよ! こいつの体内に寄生する気か!?」

「あれ? ナバロはまだ?」

「あの赤毛遅ぇんだよな、ほっといて行こうぜ。どうせメイクに時間かかってんだろ。化粧ノリが悪いんじゃねぇのか」





 あれだけ兄弟でもめていた赤いシャツはクロスが着用していた。


 光沢のある生地の深紅のシャツには蝶ネクタイとジャケット、そしてパンツの三点を黒で揃えているクロスは随分と大人びて見えた。

 シャツの上には灰色のベストを着ており、開けたジャケットは動く度に裏地の紫が覗く。

 髪形は癖の強い髪を七三に分けて流している。





 一方、目当てのシャツを強奪したが力ずくで奪い返されたシェアトは普通の白いシャツにネイビーのジャケットとパンツ姿だった。

 ジャケットの襟と蝶ネクタイは黒く、少し遊んだ印象がある。

 ポケットに手を突っ込みながら立つシェアトは自分を見ろと言わんばかりの主張の強さだ。

 いつもと変わらない髪形だが、元々顔立ちも良いのでプロムに向かう女子生徒達からの視線を浴びている。







「バカ言ってると張り倒されるわよ。でももうプロムが始まっちゃうわ……、先に行きましょうか」

「そうだね。あれ……クリス、僕はこっちだよ? 誰に言ってるの?」


 王子、といった文字が似合うのは彼だろう。

 綺麗なミルクティブラウンの髪は軽く整えられ、艶やかだった。

 翡翠のような美しく澄んだ瞳はいつも優しく揺れ、彼に似合う清潔感のあるシャツは白く、銀色のストライプがうっすらと入っており、その上に金のボタンが六つ付いたえんじ色のスエード生地で出来たベストを着ている。

 ベストの縁は全て金色になっており、ジャケットとパンツは薄い黒で締まっている。

 ジャケットは珍しく前を開いて羽織っていた。

 開いている胸元には銀細工のロケットネックレスがあり、中には家族の写真が入っているらしい。


 皆に呼びかけたクリスの顎を片手で持ち上げると軽く唇を合わせて微笑んだ。

 周りの冷やかしなど一切聞こえないようで、そのまま彼女の手を取り、腰に手を添えてプロムへと向かってしまった。








「それじゃあ、僕らも参りましょうか。姫、お手を」



 前後で髪色の違うウィンダムはプロムに合わせて髪色を変えて来た。

 おかっぱなのは相変わらずだが、フェイスラインの両側だけが黒くなり、残りの大部分は白い。

 独特の個性を生かした服装で、スカイブルーの黒いチェック柄のパンツに黄色のシャツ、赤いネクタイは結び目をかなり大きくしていた。

 真っ黒な燕尾服の尾の部分は長く、中に着ているベストは暗いグレーだがごちゃごちゃとしている。

 ごちゃごちゃ、の内容としては装飾品が刺さっていたり、留められていたりと光を跳ねて輝いているせいである。


 恭しくお辞儀をしてから跪くとフルラに手を差し出した。

 シェアトから解放された彼女は、おずおずと手を伸ばすとその勇気に周囲から歓声が上がる。

 気の弱いフルラは不安気に回りに視線を動かすと、ウィンダムの手で視界を遮られた。



「僕以外のことなんて、どうだっていいんじゃないの? そうでしょう?」



 頷いたのを確認すると、フルラの瞳を抑えていた手を上に移動させて前髪を上げてキスを落とす。

 そのままフルラをそっと抱き上げ、一層大きくなった囃し立てる声に不敵な笑顔をくれて堂々とロビーを出て行った。








「今日は熱帯夜だね! 僕のお姫様はまだ行かないのかな?」

 

 金のシルクの様な髪を黒い革でまとめたエルガは女性にも見えた。

 ベージュのパンツと金色の糸で派手な刺繍の入った緑のベストは茶の皮ひもで編み上げられており、シャツも良く見ると幾何学模様が生地と同じ白色の糸で縫い込まれている。

 ジャケットの代わりなのか、白い虎の毛皮で出来たコートを足元まで羽織っており、高貴さは伝わって来る。



「……おい、エルガ。お前カイと先に行け。俺はあの赤毛の様子を見て来る。待ってなくていいぜ」


 不機嫌そうに言うシェアトに甲斐が食いついた。


「え? なんで? 一緒に行こうよ、男二人で登場とか誰も得しないよ!」

「損得勘定したら俺だってお前と二人で行きてぇよ。……いいからとっとと行けっての」


 追い払うような手の動きにムッとしたような顔をする甲斐に気が付いたエルガは、さっさと姫の手を取った。


「そうかい? 悪いね。さ、カイ。寒いだろう? これを着たまえ」


 虎の毛皮コートを甲斐の肩に掛けてやると甲斐は動揺しながらも、シェアトに手を振る。

 

「……じゃあ、早く来てよー? ありがとエルガ! ……重……。これ、実家に取って来たの?」

「いいや? 三年前に持って来たんだ。このプロム用の服は買いに出たけどね」

「このコートは私服なんだ……。似合うけど……似合うけども……」



 コートの重さでふらつく甲斐を支えながらエルガは一度振り返ったが、その時にはもうシェアトは階段を駆け上っていた。



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