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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第14章 そう、この日を待っていた
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第三百五十六話 ねぎらいと、結果

 ちょうどランフランクが話している最中に食堂へ入って来た不届き者が二名。

 甲斐とシェアトは生徒たちから注目を浴びての入場となった。

 姿勢を低くして早足でエルガの目立つ金髪を探しながら進み、なんとか席へ辿り着く。


「遅れたー、ごめんね。シェアト坊やの機嫌が悪くてさ」

「カイ、静かに! 始まってるのよ……! もう、バカ犬! カイを困らせないでよ!」


「どうやら三年生は大変お疲れのようだな」


 ランフランクは二人が席に着いたのを確認してから話を再開する。


「では手短にまとめよう。三年生の諸君、おめでとう。誰一人、もう一年ここで勉強をし直すような勤勉な生徒がいない事は私としては残念に思う」


 笑いを誘うが、シェアトからするとそれは全く笑えない冗談だった。


「卒業までの残り三週間と少しを、有意義に過ごしてほしい。下級生と懇意にしている者がいるのであれば貰える物は貰い、受け継ぐものはすべて受け継ぐのだ。以上」


「別に二人仲良く寝過ごしたんじゃねぇよ……」


 食堂に話し声が漏れ始めた。

 その先駆者にシェアトも含まれているのは言うまでもないだろう。

 すかさずエルガが綺麗な笑顔で話しかける。


「では、僕のカイと二人で一体何をしていたのか聞かせてもらおうか。ん?」

「あーっ! そうだ、あの順位はなんなの!? 解答欄間違えた説があたしの中で有力なんだけど、それなら先生に言えば正しく採点してもらえるんじゃない? 言って来ようか!?」


 エルガの声を聞いて甲斐は思わず立ち上がった。

 今日は大きな出来事が多すぎた。


「お気遣いありがとう、でもその必要は無いよ。あれが正しい順位さ」


 目を細めて甲斐に微笑むエルガは少し、声の大きさを上げた。


「卒業も出来るみたいだし問題無いから安心したまえ。カイの順位はかなり上がっていたようで本当に良かった。嬉しいよ! この喜びを何と表そう!? 言葉では足りないから僕自身が彫刻にならなければならないようだ! ああ、僕を見た人間の溜息が零れる様子が目に浮かぶよ!」

「その溜息の意味合いはエルガが考えてる方じゃないと思うけどね。あ、ナヴァロ! 一位おめでとう! 凄いね、良かったね!」

「……ああ、ありがとう。ところでお前は、俺が首席を取ったらどうするつもりか覚えているのか?」



 持っていた箸をぼきりと真っ二つに折った甲斐は思い出したらしい。



 恐らく告白の件を覚えているのは本人達だけではない。

 あの時、ビスタニアは怒りに駆られて周囲の声は聞こえなくなっていたようだ。

 各寮のロビーではこれで『あのナヴァロ家の長男が編入して来た奇特な東洋人に告白するイベント』が発生するのだと女子達はとても楽しそうに騒いでいたのだ。


 今も気のせいでは無く、周りからの視線が集まっていた。

 人の口に戸は建てられないとはよく言ったもので、三年生のみならず下級生達も知っているようだ。


「まあいい、せいぜい心の準備をしておくんだな。おい、セラフィム。約束通り、だろ?こいつにアピールしておく時間は残り少ないからな。容量の無い頭を使って頑張れ」

「なんっでお前はそう、上から目線なんだよ! テメエ、まさかもう勝った気でいるんじゃないだろうな!? お前なんてカイといた時間なんて短いだろ! 俺はこいつと太陽組でずっと一緒だったしな!悪いが卒業後も一緒だ、お前こそママに泣きつく準備をしておけ!」

「量より質だ、時間なんて関係ない。それすら分からんか? まあいい、精々頑張れ」


 シェアトと舌戦を繰り広げるビスタニアはふと、想い人がフォークを持ったまま硬直しているのに気が付いた。


「おい、どうした。何固まってる? ……そうだ、朝食が終わったら何がしたい? 雪だるまだかを作るか? 試験も終わったんだ、お前の遊びにとことん付き合ってやる」


 そう優しい口調で言うビスタニアに更に固まったどころか、ヒビまで入ってしまいそうになったのは甲斐だけではない。

 同じテーブルのエルガ以外の全員が口を閉めておく力を失ったようだ。


「ああ、でも校長室に用がある。ロビーででも皆と待っていてくれ。すぐに済ませて戻って来る」

「あ、僕もちょっと一緒に行きます」


 ビスタニアが甲斐の監視役であり、サクリダイスとやり取りをしているという込み入った事情を知らない友人が同席しているので、内容をぼかして話すと察したクロスも立ち上がった。

 毅然とした態度で歩いて行くビスタニアの後ろを早足で追いかけていく。

 クロスは随分と身長が伸びたようだ。
















「……びっくりしたわ……。びっくり……本当……ビスタニアがあんな……ねえ。何か災害が起きなきゃいいんだけど…」


 語録を失っているのはクリスだった。

 仮にも親しい間柄だったはずのビスタニアが見たこともない優しさを甲斐にありったけぶつけていたのだ。

 

「恋の力とは偉大だろう? そう! それは無限の可能性を秘めているのさ!」

「……フルラちゃん、口開いたままだよ」


 ウィンダムに顎を触られ、フルラは椅子の上で跳ね上がる。

 

「ふあっ!? ……凄いなあ、あのビスタニア君とこうして仲良くしてもらえてるのも凄いけど……。最初はあんなに怖かった人もあんな風に笑うんだね……」

「俺はこれまでにないぐらい怖ぇと思ったけどな……」


 身震いするシェアトの横で甲斐は頬は赤いが、全体的に見ると顔色はあまり優れない。


「あんなにあたしの事を糞味噌に言ってた人間が……夢かと思うよ……」

「あれが本当の彼なのかもしれないね、気を張り続けて来ただけなんじゃないかな。でも首席も取れた訳だし、本当に良かったよ」


 そう言うとちらりとエルガに視線を送ったルーカスは、くすりと小さく笑った。


「何か楽しい事でもあったのかい?」

「そうだね、やっぱり僕はみんな好きだなって改めて思ってさ」

「そうかい、でも僕はやっぱりカイが一番好きだけどね。彼女には絶対に幸せになってもらいたいんだ」












 思い切り笑って、沢山遊んで。



 分かち合うことが何かを知って。



 たとえば一緒に夕焼けを見たり

 


 夏のある日に暑いねと言い合ったり


 

 些細な出来事はやがて



 宝物のように輝きだすんだ。 



 そして何度か眠りに就けば、思い出に変わるだろう。

 





 その日まで、せめて。






 忘れさせないで






 ちゃんと笑っていさせて






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