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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第14章 そう、この日を待っていた
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第三百五十二話 卒業試験・順位発表


 卒業試験の結果が貼り出される朝。


 今までとは違い、早朝から生徒達の声で各ロビーは賑やかだった。

 昨夜はフルラとウィンダム以外のメンバー遅くまで紙飛行機を飛ばし合ったせいで、その片付けに追われる事となった。

 そのおかげで結果に対する緊張感が忘れられ、良かったのだと鏡を見ながらビスタニアは思った。


 自己採点の結果はほぼ満点ばかりだったが、二問だけ落としてしまった。

 こうなると今まで一問たりとも落とした事の無い無敵のエルガ・ミカイルには敵わないのは明白だった。



 それでもエルガとクロスの前で強がっている訳でも無く、普段と変わらないでいられたのは何故だか分からなかった。



 かといって自分自身の愚鈍さを酷く責めようとも思わなかった。

 やはりこうなってしまったか、といったミスを受け入れる気持ちを持てる日が来るとは思わなかった。


 こうしてフェダインの制服を着ている日々から離されてしまうのが名残惜しいと、ふとした瞬間に思う。

 だがそれに対しても驚きである。


 首席を取って告白をすると大きな口を叩いてしまったが、甲斐の事を諦められずにいた。

 首席じゃない自分は告白する権利など無い。

 いや、本当にそうなのだろうか。



 家の名は捨て、一体どんな仕事に就こう。

 全く後ろ向きでなく、むしろ高揚感を感じている。



 人を助けるような仕事でもいいし、黙々と何かの研究や作業に追われる仕事もやりがいがありそうだ。

 ただ性格上、接客やサービス関係は難しいだろう。

 あまり個性的過ぎる制服でない所であればなんだっていい。




 もっとも、そんな未来への希望に満ち溢れるその前に、父であるサクリダイスに成績の報告をしなければならないのだが。




 過激な嫌味と、醜悪な物を見る視線にさえ耐えればいい。

 荷物だって着の身着のままでいい。

 後から取りに戻る方が面倒だ。

 

 唯一母の事が気にかかるが、未だに何を考えているのか分からない女性なので大丈夫だろう。

 大丈夫、少しだけ人より自立するのが早かっただけだ。

 いずれ皆家を出る。

 そして両親との別れもあるだろう。




 何も、特別な話ではないのだ。












 まだ六時だというのに、ビスタニアが部屋を出るとまるで食堂のような騒がしさが聞こえて来た。

 階下にはもうウィンダムやクロスはいるだろうか。

 ミカイルは恐らく興味も無いだろうから、普段通りに起き出すだろう。


 階段を下りていくと、静寂の波が広がった。


 その意味が分からないまま、貼り出されている成績順位表の前に立ち、総合成績よりも月組の順位表から見る事にする。

 先に、ちょうど半分ほどの順位から友人達の名前を探していく。


「(ほう……インラインは去年よりもかなり順位を上げてきたな。実技はどうも危なっかしかったが、的確な判断が出来ていたし問題無いだろう。ウィンダムが付いていただけある。それに比べてウィンダムはインラインより下か……。あいつは人に教えるよりも自分が努力した方がいいんじゃないのか……?)」



 半分よりかなり上の位置にクロスの名前があった。



 湧き上がるような喜びに息を呑む。

 後ろを振り返ってクロスを探したがどうやらまだ起きていないらしい。

 昨夜は遅くなってしまったので無理もないが、早く伝えに行きたかった。



 気持ちが急いて、一番上にあるはずの名前に目をやる。

 三年間も同じ名前をこうして見上げるなんて悔しいが、自分が及ばなかったのも相手があのミカイルであるのだから仕方がない気がした。



 そう何度も思っていたのに、今視界にある一位の横の名前がどうしても認識できなかった。

 さっと引いた体の熱が急激に上がり、息が早くなる。









「先輩っ……! ビスタニア先輩っ……! お、おめっ……おめでとうございますっ……ホントに……ホントにっ! 首席なんて……凄過ぎますっ……!」









 人を掻き分け、クロスが飛び出してきた。


 自分が卒業できるという喜びを上回る、圧倒的な嬉しさに跳ねるようにして放心状態のビスタニアの前に回り込んだ時、彼の笑顔は凍り付いた。

 待ち望んだ三年越しの首席。

 その瞬間の表情とは到底思えないものだったからだろう。



 歓喜の気持ちなど微塵も感じられず、ビスタニアの瞳の朱色を更に際立たせ、彼の体が微かに震えている。

 ビスタニアを包んでいるもの、その全ては怒りだった。



 そして周囲の者から次々に発せられる祝福の歓声の中、クロスを見る事もせず、足早に階段を駆け上がって行ってしまった。

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