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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第14章 そう、この日を待っていた
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第三百五十話 クリスの答え合わせ

「クリス、絶好調だね。 斜め上に突き抜けるように走る赤ペンの動きは見事だよ!」

「あら、貴方にとっては珍しいでしょう? これはね、正解じゃない時の筆の動きなのよ! もっと近くで見てもいいわ!」


 後半の採点をしていく内にとうとう何かが吹っ切れた二人は、内容とは裏腹にとても楽しそうだった。

 それも最後の問題をクリスが跳ねた時までだった。


「見て見て! ルーカス! マルとバツの割合がこの科目も七対三よ! 七割は取れてる!」

「クリス……? 嘘だろ……? 後はもう平均点に賭けるしかないなんて……! 試験前に教室中に毒ガスを撒いておかなかった僕を許してくれ……」

「これ……悪いかしら? ルーカスの出来が良すぎるだけじゃない? だって半数以上とれているのよ?」

「クリス、現実から逃げてはいけないよ! 一緒に、向き合おう……?」


 そういうルーカスの目は泳いでいた。

 それを見たクリスはとうとう限界を越えてしまった。


「イヤアアアアア! いやああああああああああ!」

「ちょっ……!? クリス!? クリス!? 静かにっ……」



「今すぐそのサイレンを壊すか窓から捨てなさい! それが嫌ならさっさとここから出て行く事ね!」



 突然金切り声を上げ出したのクリス、そしてその中でもしっかりと響き渡った怒号は凄まじく、本棚が揺れたように思えた。

 司書としているミセス・ライブラは神経質そうな目を吊り上げて、細い体に似合わぬ低音で怒鳴りながら二人の元に手に光の玉を準備して近付いて来る。

 ルーカスは丸く目を見開いたまま発狂しているクリスの問題用紙と本をどんどん鞄に詰め込み、彼女の腕を掴んで知書室を飛び出した。


 



 命からがら、というのか。

 無事に逃げおおせたルーカスはようやく止まったサイレン、もとい自慢の恋人に言いたい事をようやくぶつける。



「そういうスイッチが入った!? それとも発作かな!? どちらにしても暫く知書室には入れないよ!」



 息を整えていると、まだクリスがイヤと小声で言っているのが聞こえる。

 また大声を出されては堪らない。

 落ち着かせようと荷物を置いてクリスの頭を撫でると、やっと何を言っているのか聞き取る事が出来た。




「いやああ……一緒に卒業できないなんてイヤぁ……」




「そうだね、僕も嫌だよ。とってもね! 若干点数が悪かったのは予想していたけど……あ、いやいや大丈夫。でも、もっと僕に色々聞いてくれても良かったのに」

「邪魔したくなかったのよ! うぅ……でもエルガにも見て貰ってたのに……」


 希望の光が見えた気がした。

 あのエルガに付いていて貰ったのだ。

 効果が出ないはずがない。


「エルガに教えて貰った教科は? さっきの凄惨な報告の中に含まれている?」

「ルーカス笑ってるのに怒ってるみたい……。怖いわ……。まだよ…最後の砦にするの……」

「怒ってないよ! ちょっとパニックなだけ! それと、ボロボロのベニヤ板で出来た建築物は砦とは言わないよ。よし、ちょっと貸して。僕がここで採点するから。どれ?」

「えっ? どうして今そんな例えを出してきたの!? 私もパニックになりそう!」


 涙を落としていたクリスが思わず顔を上げた。

 しかしルーカスはやり合う時間が惜しいのか、クリスの鞄に突っ込んだまだ白黒の文字が躍っているだけの問題用紙を取り出した。

 

 所々時間が無かったからか答えを書き込んでいない。

 こういう場合は正解に賭けるよりも不正解に賭けるべきである。 


 廊下に片膝を立てて座り込み、赤ペンを握る。

 向かいにクリスは足を横にして座り、ルーカスの採点を見ていた。

 問題を読んでから、クリスの答えを読み、そして数秒考えた後に一問目に丸が付く。



「やったわ! ざまみろ! あら失礼、続けて!」



 軽快な調子でルーカスは採点を進めていく。

 両手で口を覆い、不安そうな顔をしているクリスは正解の印が書き込まれる度に一喜一憂を繰り返していた。



「終わった……!」

「終わった!? 私、死んだ方が良い!? そ うよね! 生き恥晒す位なら死ぬべきよね! 転生してまた貴方に会いに行くわ!」

「死に急ぐ事も無いんじゃない? 良かった、この三科目共……九割、取れてるんだ……! 凄いよ本当に!」


 それはクリスにとっての最高点だった。

 その三科目はエルガが見てくれたものだ。

 他が壊滅的だとしても、この三科目で高得点を取れるようにと目を掛けてくれていた。

 


 さっきとは違う涙がクリスの瞳から溢れた。

 


「うううぅ~……!」

「クリスは泣き虫だね。……ほら、おいで」


 

 霞む視界でもルーカスの広げた手が見えた。

 安心感と、エルガへの感謝と喜びが混ざり合って瞳から溶け出しているような気がした。

 ひとしきり泣いたら、金髪の彼にお礼を言いに行こう。


 体に回った腕から熱が伝わる。

 今だから思うが、心配されるのも案外悪くない。



 そして机に向かうのは、やはり自分の性に合っていないと実感した。



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