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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第14章 そう、この日を待っていた
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第三百四十五話 意見に賛同せよ

 月が高くなった頃、月組のロビーにはシェアトに声を掛けられた者が集っていた。

 何だかんだと最後まで文句を言い続けていたウィンダムはフルラを送るついでに少し夜のデートを楽しんで来るらしいので、暫く戻って来ないだろう。

 クロスもトライゾンを連れて久しぶりに外で遊ばせに行った。


 実技試験直前だと言うのにこの余裕である。

 皆、ある程度自信が付いているからか、今朝までの緊張感は解けていた。


 事の顛末をシェアトが話し終わるまでに一時間もかからなかった。

 その間、何度かビスタニアが口を挟もうとしていたがルーカスに目で制されてその度に咳払いで誤魔化していた。








「……よし、話は終わったか? ならば言わせてもらう。このド阿呆が! 無神経にもほどがあるだろう! あいつの気持ちも少しは考えてやれ! 犬なら犬らしく賢く立ち回れ!」

「っんだよ! 俺なりに色々考えたんだ! あいつはきっとなんか隠してる! でもそれが俺達にも言えないような事なら、力になりようもねぇだろ!?」



 立ち上がり、顔を突き合わせての怒鳴り合いを遮るようにルーカスが二人を魔法で座らせた。



「二人共、もう夜なんだから少し静かに。もう一人のカイの居場所が分かっただけでも大きな収穫じゃないか。カイはまだその話を校長にも言ってないよね? ……言わないつもりなのかもしれないけど」

「簡単な事じゃないか。カイはきっと指輪で見て来た映像の内容は誰にも話していないんだ、本当の事はね。きっとそれは校長に対しても同じはずさ。今回の事も無かった事にするつもりだろう」



 まるで当然だという言い方をするエルガにシェアトが突っかかる。



「何の為にそんな事すんだよ!? そんな事してなんの得になるんだ!? あいつ、俺達の事を信用してねぇのか?」

「馬鹿か。ああ、馬鹿だったな。信用しているからといって全てを話せる訳じゃないだろう。逆に言えば、お前こそあいつを信じてやれないのか?」


 鼻で笑うビスタニアへ口ごもったシェアトに、ルーカスが仲裁に入った。

 指輪の映像については『もう一人の甲斐が今ここにいる甲斐のいた魔法の無い世界にいる』、ということで間違いがないだろう。

 しかしそうなると気になる事があった。


「ビスタニアの言う通りだよ、カイはカイなりに考えて動いているんだから。むしろ、他言しないままこうして僕達以外に異世界人だと知られないように過ごしてきた彼女の努力を頭ごなしに否定するのは良くないと思うな……。それよりも映像を見た時に言った『良かった』っていうのが気になるね。もしかしたら以前に見た映像でもう一人のカイの身に何かが起きたのを見ていたのかもしれないね」

「なんだよそれ、それを俺らに隠すのはなんでだよ……」

「シェアト、女性の嘘を笑って許せるようにならないと男としては格が低いな。あと一つ良い事を教えてあげよう。人が嘘を吐くのはいくつかの理由がある。そしてその中で最も多い理由、五つを知っているかな?」


 首を横に振ったシェアトがエルガに胡散臭そうな顔をしている。


「僕も分からないな、人間心理かい? 教えてよ」


 ルーカスが興味深そうに言った。

 その横でビスタニアは何度か小さく頷いているので恐らく知っているのだろう。



「一つは『悪意のある嘘』だ」



 すらりと細く、長い人差し指を口元に当てるエルガの背にある窓からは月明かりが差し込んでいる。



「誰かを騙してやろうとする意識がはっきりとあるもの。これにカイが当てはまらないのは分かっているね?」



 シェアトがちゃんと頷くまでエルガは黙っていた。

 そしてようやく目を背けたまま頷いたのを確認すると、次の理由へ移る。



「二つ目は『嘘をついていることに本人も気が付いていない』。自分の本音を無意識に隠している場合だ。今回のケースには当てはまらないね」




 暖色の照明に包まれたロビーの中で、月明かりはエルガ一人を照らしているように見えた。




「三つ、『最初は嘘では無かったのに結果として嘘になってしまった』場合。これは悪気が無い場合が多いね」

「……悪気が無くても嘘は嘘だろ」



 吐き捨てるように言ったシェアトにビスタニアが苛立ったのが分かる。



「ほう? お前はいつからそんなに潔癖になったんだ? 例えば何か目標を立てたとする。それを周りに言った時は本人もやる気だろうし、周りも結果は分からない。結果的に目標を達成できなかったら最初に遡って本人は嘘つきだと非難するのか?」

「……そういうのは、違うだろうが……」



 エルガは二人の話の結論を待たなかった。

 


「四つ目、『その場から逃れたい』と思ってつく嘘だ。簡単に言えば言い訳だね。事実を湾曲してその場を済まそうとする。小さな頃にした心当たりがシェアトにもあるんじゃないか?」

「うるせぇよ。なんだよ、今までのどれでもねぇんじゃねぇか? あと一つは何だよ?」


 思わせぶりに足を組み直すと、エルガはにっこりと笑顔見せた。





「最後は『相手のためを思ってつく嘘』さ。優しさから出る嘘だ」





「俺達の為を思って? ……でも、嘘は嘘だろそれに隠し事をされたってとこが俺は気になるんだ、理由がどうこうじゃねぇよ」


 どこまでも意見を曲げようとしない。

 ルーカスはなだめるように、だが向き合うように話す。


「シェアト、嘘は確かに良くないよね。でも、全てを否定したらこの世界は回らない。それにこの世に嘘をつかずに生きて来た人が果たしているのかな?」


 考えているのか、返事は無い。


「下らない。お前はただ、なんでも知った気でいただけだろう。あいつの知らない部分があるのが嫌なだけだ。いいか、嘘なんてものはついた本人が一番気にしているものだ。嘘をつかれた方が自分の感情を押し付けるよりも相手を思いやる気持ちが無ければ成立しない、ただそれだけの話だ」

「お前らは、気にならないのかよ! あいつが一人で何かを隠し込んでるのに放っておくのか?」



 シェアトはここに味方がいない事はもう分かっていたが、聞かずにはいられなかったようだ。



「僕はカイを信じているし、カイも僕達を信頼してくれていると思っているよ。思い上がりじゃなければ本当に困ったときはきっと話してくれるだろう。生きていれば自分で抱えなければならない物は誰しも一つはあるさ」

「まあお前は感情のままに動いてしまうのも知っていたし、あいつもお前に悪気が無い事は分かっているだろう。あいつが何を隠しているのかは分からないが、話す気もないだろうしこれ以上深入りしてやるな。ただもう一人のあいつに対しての言葉は考え直す余地があるな」

「僕も二人に賛成だな。シェアト、大人になる機会だよ」

「結局俺一人が悪者かよ、やってらんねぇ」


 そう言いながら椅子の後ろ脚で重心を保ち、前足を浮かせて揺れているとバランスを崩して後ろに倒れた。

 打ち付けた頭の痛みに涙が浮かんだ。



 涙が流れ続ける程、彼女の心に響いた衝撃はどんなものなのか想像しても、やはり分からなかった。

 ただ、こんな痛みなど生ぬるいのだろう。



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