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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第14章 そう、この日を待っていた
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第三百四十四話 二人の溝

 筆記試験が全て終わったというのに他の三年生とは違い、甲斐のいるテーブルの雰囲気は悪かった。

 そこら中で開放感に笑い合う声が聞こえる中で複雑そうな顔をしている者や、苛立つ感情を表に出している者などこのテーブル以外では存在していない。


「これで明日の実技試験が終わればもう自由の身ね! 卒業までの一か月は遊び狂いましょう」

「そうだね。プロムの準備もしないといけないから外出許可取らないと」


 いつもは我先にと話に入り込むシェアトは何も聞こえていないように食事をしていた。

 クリスもルーカスも入りやすそうな話題を普段よりも大きな声で話していたが、今日のシェアトには効果は見られない。

 何度か気を遣って甲斐は返事をしたり、空笑いをしていたがやがて黙ってしまった。


 その様子にフルラはハラハラしているのか、全く皿の上の料理が減っていない。

 ウィンダムに横取りされているのにも気が付かない程、甲斐とシェアトを交互に見る事に集中しているようだ。




「……おい、お前達はどうしたんだ。こんなんじゃ食事がまずくなる。いつまでもそうしていられる訳ないだろう、何があったのかは知らんが早いとこ話し合え」




 目にあまったビスタニアは二人に注意をしたが、二人共息を合わせたかのように一度手を止めて横目でちらりと互いを見やると鼻を鳴らしてまた不愉快そうな顔を浮かべて食事を始めた。


「……兄さんがすねると面倒ですよ。子供なんかより相当たちが悪いですからね」


 クロスは今までの経験を踏まえ、ビスタニアに耳打ちすると酷く納得したように何度も頷いている。


「それにしても……トウドウ先輩が徹底的にこうして怒ってるのって僕初めて見ましたけど、怒るんですね」

「俺もだ。あいつを怒らせるとはな……。それにしても二人共引きずるタイプだとは思えんし、それだけの事があったのだろう。寝て起きれば戻るかもしれん、放っておけ」



 口ではそうは言いながらもビスタニアの機嫌が悪いのは皆が分かっていた。



「あれれ? 冷たいねぇビスタニア。いいの? カイちゃんの目が腫れてるのは気付いてる?」

「ウィンダム、俺が目を閉じて寝ているとでも? 分かっている、でもあいつはあいつで自分で解決できるだろう。何も言ってこない相手の問題に首を突っ込むほど俺は小さい男じゃないんだ」

「雨降って地固まっちゃったりしてね。いいならいいんだけど」


 からかっているウィンダムはとても楽しそうに目を細めていた。

 ビスタニアが眉を上げると降参の仕草を取る。


「それにしてもミカイルの方が騒ぎ出すかと思っていたが……」

「おっと、お呼びかな? 騎士は姫の見えない所で動くものさ。汚い所は姫に見せないんだよ」

「なっ……なんだこの寒気は」


 鋭い殺気を感知してシェアトが身震いすると甲斐は目障りだとでもいうように舌打ちをした。

 食事が終わりロビーへ向かう道中、甲斐がどこかへ行ってしまわないようにクリスとフルラが両脇を固めている。


「カイちゃんカイちゃん、いっぱい食べた? おいしかったね! ね?」

「そ、そうだね。フルラ腕組まなくてよくない? 歩きにくいよ」

「あら、ずるいわ。じゃあカイは私と手を繋ぎましょう」

「なんで!? うっわ! クリス握力強っ!」




 一方で前を歩いて行く男共は後ろの女子達の様な華やかさは無かった。

 ただシェアトがぼんやりとしているのを放っておいていたが、ようやく重い口を開いた。




「おい、エルガ。あとルーカス。……癪だが赤毛も来い。後で話がある」

「こんなに堂々と仲間外れにされたのは初めてだよ! いいね、楽しそうだ! 僕とクロス以外は!」


 一人声高らかにひとしきり笑った後で、ウィンダムはシェアトに微笑みかける。

 指名されたエルガはシェアトの肩を軽やかに叩き、突如として深刻な表情を見せた。


「ははは、クロスと楽しくやっていておくれ! そしてシェアト、もしかして君強姦罪の基準を聞こうとしているんじゃないだろうね?まさか無理矢理手籠めにしようとでも……」

「お前って頭良いのに悲しい位馬鹿だよなあ……。いいからちょっとあいつらがいなくなった後でも付き合えよ」

「知ってますか、いじめって言葉。自分の何気ない一言で誰かが傷ついてるって考えた事ないんでしょうね」

「その言葉、普段のお前にそっくりそのまま返してやるよ」



 誘ったら誘ったでひたすら罵詈雑言を言うであろうクロスは、誘われないというのも嫌なようだ。



「……実技試験の前だけど早く眠れそうにないね。それで二人の関係が戻るなら付き合ってあげてもいいけど」

「あんま時間は取らせねぇよ。ただ、聞いてほしいんだ」



 交換条件をさりげなく持ち出したのはルーカスだった。



「僕達は戦力外通告って訳だ! ああ嫌だなあ! 自白魔法をうっかりかけてしまいそうになる!」

「本当ですよね、気絶寸前の痛みを与え続けたら教えてくれるかもしれません。試してみますか」

「だーもう! グチグチうるせぇんだよ! ウィンダムはその間おチビとよろしくしてろ! その頃にはクロスは寝る時間だろ!? ベッドでトライゾンにあやしてもらえ!」


 ウィンダムとクロスで同盟を結ばれては面倒そうだが、シェアトの一言により同盟は解消されたようだ。


「そうだったね、フルラちゃんと二人きりの時間が少ないしそうさせてもらおうかな! 苦し紛れにしては良い案を出すじゃないか!」

「低俗な犬畜生が……」 


 唯一の味方がいなくなったクロスは歯ぎしりをしながらシェアトを睨みつける。


「そういうファンキーな映画でも見て影響を受けたのか? そうじゃないならどうしてそんな言葉の発想が浮かぶんだよ、ある種の才能だな! クロス、ちょっとこっち来いや」




 一連の様子は嫌でも聞こえて来る。

 甲斐とこの状態だというのにはしゃいでいるように見えるシェアトの様子がクリスは面白くないらしい。



「何よ、あいつ元気じゃない。……ねぇ、カイ」

「そだね、良かった良かった」


 甲斐らしくない、そっけない返事にクリスもどうしていいか分からずに口をきゅっと結んだ。


「……カイちゃん、元気出してね。早く、仲直りして欲しいよ」

「ありがとー! でも、別に元気が無いわけじゃないんだよ。ちょっとだけ、疲れただけ。シェアトが悪いって事でもないから気にしないで」


 いつになくドライな返答に二人は何も言えなくなった。


 本気でそう言っているのであればそれこそ取り付く島もないという状態だ。

 ロビーに着いても結局甲斐とシェアトは話をすることは無かった。



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