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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第14章 そう、この日を待っていた
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第三百四十三話 追憶・あの時の二人は

 映像が終わった後も、甲斐は何かを期待しているかのようにその場から動かなかった。

 指輪を拾い上げようとするシェアトに飛び掛かって来たのは予想外で、バランスを崩した彼の上に甲斐はのしかかった。


「何すんだよ、押し倒すにもムードっつーもんが……」


 ただ声を出さずに涙を落とし続けている甲斐は無表情だった。

 そのままシェアトの手に握られた指輪を奪い取ろうと手を伸ばしてくる。


 右へ左へ揺さぶりをかけ、甲斐の手をかわすと、空いている方の手で甲斐の肩を掴んだ。

 はっとしたような顔をした甲斐は大人しくなり、そして肩を落とした。


「なんだよ、前になんか指輪がどうこう言ってたな。……これは、なんなんだ?」

「……知らない……。返して……」



 嘘を、ついた。



 あの映像の中の甲斐が怪我をしたのは知っていたがまさかこんな事になっているとは思わなかった。

 更に言えば、自分のいた世界に行っているなんて思いもしなかった。


 この指輪が光り出したのは、きっと彼女の意識が戻ったからなのだろう。

 家族に発見されて病院に運ばれ、そのまま入院していたとは思わなかった。


 もう一人の自分の事も心配だったが、突然娘が大怪我を負い、意識が戻らなくなった両親の事を考えるとまた涙が流れた。


「本当に知らねぇのか? あいつはもう一人のお前だよな?あれはお前の世界の病院じゃねぇのか?医療魔法も使ってなかったよな? ……それ見て驚く前に良かった、ってなんだよ? 何か知ってんだろ」

「病院だよ、多分ね。あとあの会いに来てた女性はあたしの母親だよ。あと他は知らないってば……。いいからそれ、返してよ」

「何をそんなにカリカリしてんだよ。なあ、お前は今何考えてんだ? 言えよ」


 何度も伸ばす甲斐の手を捕まえたシェアトは起き上がって甲斐の目を見る。

 これ以上この話し合いに時間を割いて、また指輪が映像を映し出さないかと気が気でない甲斐はそれどころではなかった。


 だが押しのけようとしてもシェアトは動かなかった。

 腕も離してもらえそうにない。


 こんな事で今までの苦労を無駄にしたくない。


「なあ、お前の事を少なくともこっちに来てからはずっと見て来た。俺はお前を信用してるし、人間としても女としても好きだよ。お前はどうなんだ? 俺の事をどう思ってる? そんなに頼りないのかよ」

「そんな事ないよ、それに今はそういう信用問題とかじゃなくて……。あーもー、離して。そんなに色々考えられない! ごめん!」



 今はシェアトの真っ直ぐな瞳も、ぶつけてく気持ちも受け止めきれなかった。



「落ち着けって! お前が今どうこう出来る問題じゃねぇし、あんな映像に左右されんな! それにさっきのもう一人のお前は意識が戻ったみたいだし問題ねぇだろ!」

「問題無い訳ないじゃん! 何言ってんの!? あたしがこうしていられるのもっ……」


 その続きを何と続けようとしたのか、自分でも分からなかった。

 シェアトは被せるように、いや、掻き消すように声を張った。


「お前はお前だ! 分かりにくいからあいつはもう一人のお前って呼んだけど、お前とは違う! 他人だよ! 俺からしたらお前が無事ならそれでいいんだ!」

「……んにも……なんにも知らないくせに勝手な事言わないで……!」


 確かにもう一人の甲斐は他人だ。

 それどころかシェアトを邪魔に思っていた節もあり、全てを差し置いて善人だとは言えそうにない。

 しかし彼女は彼女なりに守る物があり、それによって命を賭けて動いたはずだ。

 まるでそれすらも馬鹿にされているようで、腹が立った。



「なんだよ……それ。知らないのが悪いのかよ……? それならなんで話してくれねぇんだよ……? じゃないと分かるはずねぇだろ」



 初めて見る顔をしていた。



 まるでシェアトは親に怒られた子供のように、途方に暮れてしまったような悲しみに満ちた瞳をしていた。

 悪い事をしたような気がして目を逸らし、力無く離れた手から指輪をそっと抜き取る。

 うな垂れた彼を見ないようにして、立ち上がった。


「カイ……逃げんなよ!」

「逃げてない! ずっと……ずっとあたしは前を向いて来た! シェアトが知ってるあたしが全部だと思わないで! 思い上がんなスカポンタン!」


 何かを振り払うように叫んだ甲斐が飛び出すと、クリス達が驚いていた。

 驚いたのはこっちだった。

 あまりの出来事に空腹感など忘れていたがそんな時間だったのかと思い出したが、今更食べに行くような元気も無かった。 


 今にして思えば、空腹感のせいであんなに苛立ってしまったのかもしれないと思えるのにシェアトの言葉を思い出すとまだ胸がざわついていた。


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