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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第14章 そう、この日を待っていた
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第三百四十一話 試験前の憂鬱

 事情を知らないビスタニア達は時間の限界まで捜索していたが、とうとう諦めて戻っていた。

 きっとどこかで甲斐達は発見されているだろうとビスタニアが言うのでクロスも納得し、試験に向けて頭を切り替えたが、エルガは表情に変化は無いものの何かを考えている風でもあった。


 気まずい雰囲気を目の当たりにしてしまったクリス達は、心の整理がつかぬまま別れた。

 シェアトは多くを語ろうとはしなかったし、あの甲斐があんな風に傷ついている所など初めて見た。

 どちらも普段では考えられない様子だったが、それ程の事が試験終了から今に至るまでにあったという事実が信じられなかった。


「こういう時、どうしたらいいのかしら……。試験が終わったら夕食よね……。あの二人は昼も食べてないし……きっと来るわよね」


 まるで独り言のような声量でクリスは席に座ってからも話し続けている。

 不安を紛らわせたいのだろう。


「……まず一番は午後の試験をやり切る事だね。あの二人の間で何かがあったんだろうけど、どうしたって同じ教室で試験を受けるんだから彼らも気まずいはずだよ。その後の事は今心配したって仕方ないさ」

 

 ルーカスが穏やかに言うと、クリスは気を取り直そうと笑顔を浮かべた。


「そうね……。もしかしたら元に戻っているかもしれないし……」



 理想のシナリオを口にしたクリスも本当は分かっていた。



 同じ教室に向かうのにシェアトを置いて飛び出して来た甲斐と、彼女を追いかけるでもなく時間を置いて出て来たシェアトが二人の間の溝の深さを象徴している事も。

 こんな時に行われる試験が恨めしかった。












「……どうしよう……どうしよう……どうしよぉ……」


 くしゃりと顔のパーツを中央に寄せるようにしているフルラは今にも大声で泣き出してしまいそうだった。

 震える声も、赤くなった鼻と目も、悲しそうに垂れ下がった眉もウィンダムにはこんな時でも可愛らしく見えてしまっている。


「僕らがどうこうできる問題じゃなさそうだよ。見守るしかないね」

「……あのまま、あのままだったらどうしよぉ……」

「悪い方へものを考えるより、良い方へ考えてごらんよ。仲が良いって事はそれだけ自分の意見を伝えて来た結果でもあるんだから、たまに衝突するのも仕方ない事さ。どちらも相手を嫌いな訳じゃない、きっとすぐに仲直り出来るよ」


 ウィンダムは大して気に留めていないようだが、フルラはそうもいかなかった。

 いつも飄々としていた甲斐が泣き腫らした目をしていたのに、何も言う事が出来なかった自分に腹が立っていた。

 不甲斐ないが、あの場では事情も分からないのだ。

 

 

 何も言わない方が正解だったのだろうか。



 早く元の二人に戻って欲しい。

 そして皆で笑って卒業したい。


 一緒にいられるのは限られている時間なのに、こんな状態になってしまった。

 この出来事はフルラの心を酷く落ち込ませていた。

 このまま二人の間に生じた亀裂が埋まらなかったら。



 考えるだけで悲しくなってしまう。



 人との関係がこんなにも簡単に壊れてしまうなんて、思いたくない。

 特に甲斐の事を好きなシェアトがこのままにしておくとは到底思えなかった。


 甲斐は、彼を許してあげられるのだろうか。

 それとも、甲斐が悪いのだろうか。




 いや。



 きっと、どちらも悪くないのだろう。

 だからこそ、拗れたのかもしれない。

 二人を信じて待つしかない。


 思い切り息を吸い込んで吐き出そうとすると、ぱこっとウィンダムに口を押さえられ、フルラは顔を赤くしてもがいていた。

















「……ちっ!」


 シェアトが教室に入り、甲斐を探してみれば彼女は一度も話した事のなさそうな女子の隣の席に座っており、その前後にはもう生徒が座っていた。

 完全に避けられているようだ。

 思わず零れた大きな舌打ちに、入り口近くに座ってた眼鏡の男子が顔を上げた。

 その視線を無視して空いた席に荒く鞄を置いて筆記用具を取り出す。



 一度もこちらを振り返らない甲斐が、腹立たしかった。



 まるで自分の存在自体を無視されているような被害妄想に陥ってしまう。

 試験が始まるまであと五分程残っている。

 残り時間で話せるような話題も浮かばない上に、先程起きた問題をこの短時間で解決する事など不可能だと思った。


 あの時、あの場にいたのが自分では無くルーカスやエルガだったら彼女を怒らせることは無かったのだろうか。

 そう考えると何故か拳に力が入った。




 あの場にいたのが、ビスタニアだったら?




 頭の良いあいつなら、もしかしたら上手く伝えたり感情に流される事無く彼女を冷静にさせてやれたのかもしれない。


 そんな可能性が浮かんで、もう試験なんかどうでもよくて、とにかくこの場から、この世界から消えてしまいたくなった。

 背中を向けている甲斐は、今何を考えているのだろうか。




 試験が終わったら、彼女はまた一人で出て行ってしまうだろうか。



 自分を置いて、行ってしまうのだろうか。




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