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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第14章 そう、この日を待っていた
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第三百三十八話 クロスの卒業試験・二日目前夜


「……っはあああ! 初日終わったね……」


 まだ一日目だというのに食堂でだれている卒業予定生は甲斐だけではなかった。

 明らかに疲れた顔をしている三年生と、普段と変わらずにはしゃいでいる下級生。

 そして甲斐の隣で穏やかな笑みを浮かべているクリス。


「そうね、いろんな意味で終わったかもしれないわ。カイ、私の事忘れないでね。大好きよ。ほら、フルラもこっちに来て。ハグしてちょうだい……」

「ま、まだ分からないよう!? クリスちゃん、そんなに酷かったの!? きっと大丈夫だよぅ……」

「……フルラの言う通り、大丈夫だって。こっちにも相変わらず顔色悪いシェアトがいたし。ほら、見て。心此処に在らずって感じでしょ」


 食事には一切手を付けずに虚ろな目で白いテーブルクロスを見つめているシェアトは、結果が良かったとは思えない。

 しかしクリスにとってはシェアトと同レベルだと思うのもまた、苦痛だった。


「……おい、ミカイル」

「僕の美麗な名を呼ぶのは誰かな?おや、ビスタニアじゃないか! 僕を崇拝したいのかい? ああ、悪いけどこの美しさは信仰してもらっても分けてあげられないから遠慮してくれるかい?」

「お前の頭には何か余計な事ばかりを言って来る虫でも飼ってるのか? 一言もまだ話していない。食事が済んだら答え合わせをしないか? どうにも落ち着かなくてな……。もちろん、良ければだが」

「あ! それ、僕も混ぜてもらいたいです。自信がある所もあるんですが、僕の頭の中の引き出しが開かなかった箇所もあったので……」


 耳が良いらしい、クロスも即座に立候補する。

 しかしエルガは困ったように首を傾げている。


「過去の事は忘れた方がいい! それに結果はどの道出るんだ。そんな事に時間を割くよりも、最後の明日の試験に向けての準備をする方が実に有意義だと思うがね! 知った所で今は何の役にも立たないどころか、明日へのモチベーションが下がるかもしれないだろう?オススメしないな」

「そう……か、残念だ。ならば明日、最終試験が終わってからはどうだ? それなら問題は無いだろう?」


 珍しく食い下がるビスタニアに、エルガが根負けしたらしい。

 肩をすくめて微笑んだ。


「まあそれならいいよ。ちゃんと問題用紙に答えをある程度でもいいから書いて分かるようにしておくといい」


 結局、今夜は明日に向けてそれぞれが自室で勉強をする事になった。

 フルラは残念そうだったが、明日の科目も甲斐の言葉を借りるならば『重量級』なのですぐに勉強モードへと切り替わったようだ。

 だがクロスは最後までエルガに粘っており、結局断られてしまっていた。


「あーあ、明日で筆記は最後かあ……。僕卒業できるのかなあ、トライゾン。どう思う?」


 満腹感により眠そうなトライゾンは、クロスに名前を呼ばれたので一応お愛想程度に尻尾を振って反応したがそれきり動かなくなってしまった。

 規則的に膨らんではへこむ腹を見ながらクロスはまた机に向かった。


 何度も暗記したと思っていた魔法式も、陣もいざ問題となると細かな所が思い出せなかった。

 高得点とまではいかないかもしれない。

 クリスやシェアトのようなタイプがいない月組での平均点は恐らく他の組と比べても高いだろう。


 夜の時間がこんなに早く過ぎていくなんて。

 時間を見ればもう三時を過ぎていた。

 眠らなければならないのに、全く眠気は無い。


 緊張と勉強のし過ぎで完全に目が冴えてしまった。

 ベッドに入って目を閉じてみるが本当に覚えきれているのかが不安で、問題と答えを思い浮かべ、今度は次の問題へ、なんて事をしていたらもう三十分が経過していた。




「あー……もう、ダメだな。寝れないや」




 ベッドから出ると暖かな部屋の温度も少しだけ涼しく感じた。

 黒と白のストライプのパジャマの上に大き目の黒いストールを羽織り、そっと部屋を出ようとするとトライゾンが目を覚ましてやかましい足音を立てながら追い掛けて来た。


「お前も行くか? いいよなあ、トライゾンは夜更かししても昼間寝てられるし……」


 階段で一度トライゾンが落ちた事があるので抱き上げてロビーに降りるが、そこには誰もいなかった。

 心のどこかで、いつも誰かが待っていてくれているような気がしていたようだ。

 勝手に落ち込んだ自分に気が付くと、途端に恥ずかしくなる。


 揺り椅子に腰かけ、トライゾンを膝に乗せてゆっくりと揺らす。

 映像魔法の暖炉の中の炎が揺れ、たまにパチッと火の粉が跳ねるのを見ながら、もしも自分がトライゾンだったならと考えてみた。


 試験前日に考える事としては非常に馬鹿げている。

 しかし、こうして無邪気にはしゃいでいるトライゾンがこなしたドラゴンの卒業試験は到底合格できそうにないと思った。

 それどころか普段だって授業に行っている間は部屋に缶詰にされているのだ。

 それに耐えさせているのも申し訳ないが、嫌な顔一つせずにこうして一緒に居られる時間は仲良くしてくれるのも信じられない。


 そもそもクロス・セラフィムという人間は可愛げが無い性格な上、人一倍の弱さを隠している。

 ドラゴンに生まれていたとしても、トライゾンと出会ったあの日のように目の前に現れた人間に素直に付いて行くような勇気があるとは思えなかった。



「やっぱり僕は、人間でいいや……。でも、もしかしたらだけど……どの種族でも他人を分かってくれる相手っていうのはいるよね。……甘えてばっかじゃダメなんだろうけど」



 膝で眠るトライゾンにつられて、クロスはいつの間にか深い眠りについていた。



 翌朝、起きて来た月組の生徒達に無防備な寝顔を見られて微笑ましく見られ、更に映像記録に残された後にエルガとビスタニアに優しく起こされてしまい、赤面する事になるのだが。



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