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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第13章 さあ、行くよ
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第三百二十七話 妄想?現実?

 図鑑を片手に持った甲斐が上機嫌でロビーに顔を出すと、今まで話していた話題を急にやめて皆注目してきた。

 突然の沈黙が気になったが、不合格が撤回されるかもしれない報告をしようと口を開いたがまだ結果が出た訳ではない。

 クリス達にとって校長は不在という事になっている事もそうだが、何もかもが怪しく思われるだろう。

 突っ込まれても上手く切り返せたらいいのだが、その自信は無いので口を閉じた。


「……何突っ立ってるんですか気持ち悪……痛い! 兄さん、いわれなき暴力は訴訟問題ですよ!?」

「カイ……! あー、ほら、座れよ。なんか飲むか?腹は減ってないか?」

「え? ああ、うん……。何そのへにゃへにゃ顔。気持悪いんだけど……」


 シェアトは見た事がないほど優し気に笑っていた。

 そして見事なまでに気の使い方がなっていない。

 

「そうだ、カイ! 明日は晴れるみたいよ! せっかくだし、明日は外で遊びましょうか? 何かしたい事ある? そうだ、この前教えてくれたカマクラってお家作り楽しかったわね! またやりましょうよ!」

「ど、どしたのクリスまで……。なんかべらぼうに優しくない……? あんなにこの前は作ってる最中も実戦場は遊ぶ所じゃないのにとかぶつくさ言ってたのに……」


 クリスの見せたぎこちないオーバーな身振り手振りに甲斐の疑いは増していく。

 ここで限界を悟ったらしいルーカスが甲斐の前に立った。


「カイ……。その、次に受けるところはもう決めた? 卒業まで残り少ない……し……。ああ、でも進路なんて卒業後だって選べるよ? でも、やっぱりこういうのは早い方が良いと思うんだ。もちろん君がショックを受けているのも分かってるさ。僕らだって……」

「ああ、そういうこと? 皆あたしが落ちたから気を遣ってくれてるのね。今日が寿命の日なのかと思ってびっくりしちゃったよ」

「僕は全然気にしてないけどね! むしろ君が危ないあの部隊に入らずに済んで僕の心臓の負担が無くなったよ! これで安心して式の日取りを決められる! カイ、パーティはどこでやりたい? お望み通りのプランを組んでみせよう!」


 エルガは甲斐の手を取ると、上へ持ち上げ、甲斐の腰をもう一方の手で回して二人の腕で出来たアーチを通した。




「いつからお前とあいつがそんな関係になったんだ? え?」




 ビスタニアがその手を断ち切り、下手くそな微笑みで甲斐へ言葉を掛ける。




「……縁が無い事だってある、だから気にする事は無い。そうだな、何か他にお前がやりたい事は無いのか?」

「そ、その事なんだけど……」


 甲斐が話し出そうとした時、ウィンダムが空気を読まずに二人の間に入り込んだ。


「式といえば、僕とフルラちゃんは卒業後すぐに結婚する事になっているから。報告するのを忘れていたよ。今彼女の薬指に輝いているのは婚約指輪さ。皆来てくれると嬉しい。かなり盛大なパーティになるだろうからね」

「ウィンダム君! もう……ご、ごめんねカイちゃん。話の腰を折って……。その、良かったら……だけど来てね」



 ロビー内は静まり返った。

 そして沸き立つのもあっという間だった。



「やっぱりそうだったのね! もう、おめでとう! 張り切って行くわ! フルラのドレス姿、きっととってもキュートでしょうね!」

「え、えへへ……皆のパーティドレス姿も楽しみにしてるよう!」



 クリスに後ろから抱きしめられ、横に揺られるフルラは頬を赤く染めている。



「ブーケあたし目掛けてちょうだい。あれ一回キャッチしてみたかったんだ。周りの女どもなんて蹴散らしてくれるわ……」

「……うっ、うん……! あの、とにかくカイちゃん目掛けて飛ばすからね……!?」


 その後ろで何故かシェアトが照れている。


「そ、それって俺と早く家族になりたいって事かよ……!」

「お前を見ていると犯罪者の思考を覗いているような気持ちになって気味が悪いな」


「ぶ、ブーケは分かったけど……カイちゃん何か言いかけてなかった?」

「ああ、そうだ。なんて言ったらいいのかなあ…。あたし、その……不合格だったじゃん? あれ、もしかしたら間違いかも……的な……」




 妙な沈黙が部屋に広がっていった。

 思っていた沸き立つように喜ぶ反応が無く、皆の目が泳いでいく。



「カイ……そんな錯乱を起こすほど……。いや、そうだよね……あんなに頑張ったんだ……」

「……へっ?錯乱って……?ルーカス……!?」


「いいのよ……カイ。ゆっくりでいいの。事実を受け入れるのはとっても勇気がいるわ」

「クリスまで……? 勇気……? な、なんの話をしているのか…」


 やけに優しい、というよりも憐れんでいるような瞳をしているのはクリスだけではない。

 シェアトまでも甲斐の肩を優しく掴んだ。


「悪かったよ……、まだ話すのは早かったな……。ほら、だから俺がこいつ来る前に放っておけっつったろ!?」

「シェアト!? いいんだよ!? 何が!?」


「一時的な記憶障害か……。せっかくなら僕とカイが結ばれていたと錯覚してくれたら良かったのに……! この一年半、毎日のように愛の言葉を呟いていたが上手くいかないものだね……。洗脳するには思考力の低下させて外部との接触を遮断しなければならないけど、ここだとカイを閉じ込めておく部屋の確保が難しいしなあ……」


 エルガは便乗して甲斐を監禁しようとしている。


「だ、誰か通報を……!」

「ミカイル先輩、さらっと怖い事言わないで下さい……」


 甲斐とクロスが同じように青ざめ、そして震えている。


「カイちゃん……早く良くなってねええ……」

「君の親友は一時的な病に犯されているだけさ。大丈夫、ほら泣かないで」

「おいこら新郎新婦。式は式でも葬式にしたろか」



 フルラとウィンダムに啖呵を切っていると、ビスタニアが甲斐の両肩を掴んだ。



「いいか、俺の目をしっかり見ろ。自分の名前は分かるな? 昨夜、ギアと話した事をちゃんと思い出すんだ。頭痛はしないか?」

「やーめーてーよー! あたしは病気じゃなあああい! しかも記憶障害とか、そんなわけないでしょ! 自分の都合の良いように記憶を書き換える力があればもっと人生楽しくハッピーにいってるわ!」


 誰しもが今まで以上に楽しくハッピーにいかれたら堪らないと思った。

 激しく皆の前向きな悲しい妄想という目線を否定するが、現実問題、結果がまだ出ていないので合格したとも言い切れない。


 このもどかしさの中で憐れむような視線が辛かった。


 出来る事なら今すぐにランフランクに登場してもらい、合格を言い渡してほしいのだがその願いが叶うのは数日後の事となる。

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