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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第13章 さあ、行くよ
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第三百二十六話 親の七光りのような輝きで

 クリスとフルラの情報通り、ランフランクは確かに不在だった。

 訪ねた時に部屋の主がいないのは初めてなので、戻るべきか待つべきかと悩んだがいつ訪ねてみても、この部屋は適温であり、電球色の照明は居心地が良い。

 しばらくここでランフランクを待ってみる事にした。


 来客用だろうか、随分と立派なソファが置いてあるので腰掛けてみると、次々に茶菓子の乗ったテーブル、そして本が苦手な甲斐でも興味の湧く奇怪な動物図鑑が現れた。

 どうやらここで待っているのは大正解のようだ。


 図鑑を開くと鳴き声が出たり、ページの中で自由に動き回る生き物達がいる。

 更に言うと、本を持つ指の辺りが濡れたような気がしたので手を離すと粘着質の液体が付いており、少しその部分のページが破れてしまった。

 ちょうどそこには移動してきた光沢のある小さなネズミのような生き物がいたが、幸い動きはゆっくりとしていた。

 その謎のネズミの周りにはまるでのたくったような液体があり、それが足跡であり、粘着質の液体の正体だと分かるまでに時間が掛かった。



 若干テンションが落ちた辺りで何かが羽をはためかせるような音が聞こえ、顔を上げた。



 高い、高い天井から真っ黒な翼を生やしたドアがゆっくりと下りて来る。

 床からまだ浮いている時点でドアが開き、そこから待ち望んでいたランフランクが現れた。

 足首まで隠れた枯葉色のコートを纏い、頭にフェルト生地の黒いボーラーハットのつばの部分には雪が積もっていた。

 杖を宙に浮かせ、帽子に積もった雪を手で払いながら、椅子に座っている甲斐に驚いた素振りも見せず、微かに笑いかけた。




 唖然としていた甲斐は慌てて立ち上がり、破れたページと図鑑を広げて駆け寄った。




「……こ、これ……あの、ごめんなさい。ねとついた液体から指を離そうとしたら、破れちゃって……」

「私が魔法を使えなかったなら、君は謝るべきだ。だが幸いにも私は魔法が少しばかり得意でな。貸しなさい」


 繋ぎ合わせるように杖を動かすと、すぐに破れたページは何事も無かったかのように元に戻った。

 図鑑を再び甲斐に手渡すと、コートをお手伝い天使に渡しながら再び座るよう勧めた。


「何用かと聞くのも悪いな。……進路の件だろう」

「ああああああの! 総評を読まれたかと思うんです。弁解の余地とかはなくって……まあ確かにああ言われても仕方がないっていうか……本当にすいませんでした……」

「私は人から謝られるのが得意じゃなくてね、顔を上げるんだ」



 本日二度目の謝罪もランフランクには受け入れられなかった。



「君の性格もよく知っているつもりだ。確かに面接でダイナを激昂させるなんて思いもしなかったがね。筆記も実技もまずまずといった結果だったらしいな。そこまでやってくれたならば、結構だ。今ちょうど、『W.S.M.C』の上官達に話を付けて来た」

「はあ……。話ですか……。ん? それってもしかして……合格させないとこの先夜道に警戒して歩く事になるぞとかそういう……」

「当たらずとも遠からず、だ」



 彼の自慢の口ひげが悪戯っぽく持ち上がった。



「実力としては申し分が無いからといって面接だって試験なのだから、落ちたらそれまでなのは分かるな?」


 甲斐が頷いたのをしっかりと確認する。


「だが、今回は防衛機関からの要請もあり、『W.S.M.C』に入隊させるのが君の措置としても望ましいはずだ。こういった機関だと、どこにどれだけの恩を売っておくかが大切なのだ。それが一面接官の独断で落とされたのでは堪らない。君が如何に真剣に学業に精を出したかを伝えるのに、いい後押しとなる結果を出してくれたおかげだ。私からも直々に顔を出して来たのだ、問題あるまい」

「ううう、自分がまさか親の七光りの様な力を使って不正入隊する事になろうとは……」

「何を言っている。不正などでは断じてないぞ。一応再度審議にかけるという返事を貰っただけだ。後は向こうの冷静であり、平等で、賢明な判断に任せるしかない。とにかく今は何も考えず、期待して待っている事だ」


 ランフランクの言葉は何よりも不安を吹き飛ばす、強い威力があった。 

 待っているように言われたが、合否が分からぬ不安はもう無かった。


「……ランラン、ありがとう……。あたし、将来ナイスバディになったら少しはサービスしに来るからね」

「そうか、それまでは私も元気でいるとしよう。……さて、卒業まで二か月を切ったか。友人達との別れももう少しだ。毎日を大切に過ごすと良い。それは決して無駄にはならん。さて、私はまた出なければならん。せっかくだ、その図鑑をあげよう。出向いてくれたのにもてなしも出来ないとなれば二度と顔を見せてはくれなそうだからな」

「いいの!? ありがとうランラン。本当に……本当に色々ありがとう……」


 何か気の利いた事でも言いたかったが口をついて出て来るのは感謝だけだった。

 こういう時にボキャブラリーの無さが恨めしい。

 ランフランクの口ひげの両端が一瞬だが上に向いた後、また翼の生えたドアから消えてしまった。

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