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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第1章 君に出会って
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第三十二話 たいせつなもの

 まるで壁が柔らかな水面のように見えたし、そこに手を入れて引き抜いたトレントが信じられずに甲斐も真似をしようとしたが壁はやはり壁でしかなかった。


「宝を持ち込んだ者が決めた重量は不動。そして持ち出すときは、宝に見合った物を置いて天秤が水平、又はそれよりも重ければ宝を自分の置いた物と引き換えにしなければ此処からは欲しい物を持ち出す事は出来ん」

「見合った物?お金とか?」

「か、カイちゃん……そんな生易しいお話じゃないと思うよぅ」

「いいや? 金でもいいが、大抵はここに持って来れる量じゃ足りんだろうがな。あとは、基本的に思い入れのある物は重量がある。だから命の次に大切にしているような物や、自分の体の一部等は重量が稼げるぞ。そうだな、命が一番重量があるが一つで足りないものもあるしなあ。ここに預けたくない物程重いといった所か」


 とても楽しそうに話すトレントの傍で、ルーカスは無表情のまま先程から全く動こうとしない。


「この天秤、性格悪いんだね。そっかあ、でも預けるだけなんでしょ?」

「左様、預けるだけだ。だから宝を結局は返しに来れば自分の預けた物も取り返せるのだ。何も悪い話ではあるまい」

「だからってカイにもそれをやる必要はねぇだろ、何を預けろってんだよ?」


 今にもトレントを捕まえて殴り飛ばしたい、という欲求が見て取れるシェアトが口を開く度にフルラは怯えて甲斐の背中に隠れた。


「記憶でもなんでも、指定があればこちらで取り出そう。ああ、言っておくが宝の重さは自分で決められると言ったが、本人ですら持ち出すには代わりの物を預けて貰わなければならないからな。最後にもう一つ、此処にある宝を使って重さを合わせる事はできん」


 分母は永遠に増え続けるがマイナスには出来ず、持ち出すのであれば分母のマイナス分を埋めるか少し増やして持ち出すしかないようだ。

 甲斐は理解していないのか、今度は勢いを付けて体ごと壁の中へ入れるかを試している。


「な?こんなお前に不利な条件しかねぇんだ。初めて詳しく聞いたけど、ここまで融通利かねぇとこだと思わなかったわ。魔力器無くてもどうにかしてやるよ、行こうぜ」


 異世界から来た甲斐は持ち物など、服一枚と下着一枚しか無いのだ。

 フルラ以外今いるメンバーはその事実を知っており、校長から教員達へその事実が伝わっているはずだと考えていたので、魔力器はどうにか貸してくれるものだと考えていた。

 甘かったのだ。

 トレントに対する認識も、この場所にかけられている魔法自体に対する認識も。

 かといって魔力器自体は売ってはいるがそうそう手が届く値段ではない為、購入すること自体簡単ではない。


「いいよ、システム分かりやすいし。逆に買わなきゃならないとか、お金が必要な感じじゃなくて良かった。無一文だから借りるにしても流石に皆に迷惑かけちゃうし、毎日媚びへつらうとかキツいじゃん。トレント先生、魔力器選んで下さい」

「カイ! ちゃんと聞いてた!? 君、何を預けるの!? よく考えて言ってるのかい!?」


 いつも余り声を荒げることのないルーカスのこの剣幕にシェアトとエルガは驚いたようだ。


「逆に聞くけど、なんでそんなに皆止めるの? 預けるだけでしょ? 返してもらえるんだからいいじゃん」

「でも……、君の場合は……」

「あたしにだって大切な物ぐらいあるよ! 失礼だな貴様、首ねじ切るぞ!」

「おい、二人とも落ち着け。カイがやるってんならもうしょうがねえじゃねえか。俺たちが連れて来たんだし、魔力器自体あった方が便利なのは事実だろ」

「……シェアトまで……。便利だけど……でも、でもカイは……」

「珍しく、本当に珍しいけどシェアトの言う通りだよ。それにしてもカイは勇気のある女性なんだね。まるで戦場の女神のようだ、君がいればどんな戦いでも勝利が常に傍にあるように感じられるだろう!」




「エルガ、オマエ、アズケテ、カエル、キメタ」




 甲斐が目を見開いてエルガに機械音に似せた声で告げる中でまだルーカスは納得し切れていないようだ。


「どれ、本人がいいと言っているんだ。ワシは魔力器を探して来よう」

「カイちゃん……無一文なのおおお? わた、私助けるからねえええ!」


 トレントが奥の穴に消え去ると、勘違いをしているフルラが再び甲斐にべったりとなり、それに便乗しようとするエルガは威嚇をされていた。

 その横でシェアトは先程から少し様子のおかしいルーカスを怪訝な目で見つめながら、邪険にされたと泣きついて来るエルガをかわし続けた。

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