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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第13章 さあ、行くよ
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第三百二十五話 今後のことを話そうか

 ギアと話してから、甲斐はどうやって部屋に戻って来たのか思い出せなかった。

 気付けば日付は変わっており、随分とよく寝たものである。

 ただ覚えているのはダイナがツンデレなどといった素直に好意を示す事が難しいという性格ではなく、ただのツンだったという事実である。

 そしてもう一つ、忘れたくとも忘れられない現実。



 

 あんなにも期待に胸を膨らませ、待ち続けた結果が不合格だった事だった。




 あんなにギアとエルガに付き合ってもらったのに、結果がこれでは合わせる顔が無い。

 一緒に結果を待ってくれていた皆になんと言ったらいいか分からない。

 どうしても、いつも通りロビーに行く気にはなれなかった。














 試験が得意という人間は少ないだろう。

 甲斐はかしこまった場の行事はそもそも人一倍苦手なのだ。


 元の世界では高校の入試の際、面接の日は当時の担任にくれぐれも余計な事は話すなと血走った眼で言われたのを思い出す。

 三者面談の日は母親が何度か担任の目の前で頬をつねってきたり、足を踏んだりしてくるのが不思議だた。


 筆記も実技も問題が無いのならいいではないか。

 昨日の夜、ギアの部屋に行き聞いているだけで怒りで体が震える文を読み上げられたのは夢だったのではないか。


 そんな風に思い込もうとしたが、現実逃避だという事は分かっている。

 シェアトを守ると心に決めたはずなのに、どうして肝心な所でこうなってしまうのだろう。

 出来る事といえば非常に申し訳ないが、シェアトには同じように落ちてもらうしかない。

 

 

 それだけじゃない。


 

 思わずベッドから飛び起きた。

 卒業後の居場所を見つけなければ。

 仕事はこの際なんだって良かった。

 誰にも迷惑をかけずに独り立ち出来るようにしなくては。


 寝起きの頭で天井を見たまま考えているとクリスの声が聞こえて来た。




「あのー……カイ? 起きてる? 入っても、いいかしら? フルラもいるわよ、カイの好きな物を沢山取って来たから」


 目を閉じて時間を確認すると、とっくに朝食が終わっている時間だった。

 もうギアから聞いてしまっただろうか。

 しかし、いくら無神経そうなギアとはいえ、わざわざこんな悲しいお知らせを朝一番から中の良い友人達へするような人物とも思えない。

 ゆっくりとドアを開けると二人は心配そうに甲斐を見ていた。



「やだ、カイったら制服のまま寝ちゃったの? みんな昨夜はギア先生に結果を伝えられたのか心配してたのよ。結構遅くまで待ってたんだけどカイが戻って来なかったから……。それに今朝は校長もギア先生もいらっしゃらないし……。で、どうだった!?」


 期待を込めた表情と、どこか心配そうな瞳。

 祈るように合わされた両の手に甲斐は肩をすくめた。


「落ちた。しかもご丁寧に怒りが滲み出てるクレーム文書付きで。あれ絶対面接の直後に書いたと思うんだよね……」

「うそ!? ……うそだ……」




 フルラがくしゃりと顔を歪めた。




「カイちゃん……。それで朝ごはん食べなかったの……? あんなに、あんなに頑張ってたのに……」

「あ、ごめん。朝ごはん食べ逃したのはただの寝坊だから。食欲は全然あるよ。食べる食べる。サーモンブリュレある? やった。でもどうしようかな、あたしあそこ以外の進路考えてなかったし……。今から志願して間に合う? そんな大層なとこじゃなくていいんだけど」

「……それは私達じゃちょっと分からない……わ……。でもきっと大丈夫よ、落ちた時の事もギア先生は考えて下さっているはずだし。……あら?昨日何か言われなかったの? 今後の事とか……」



 思い返してみるが、何か言っていたような気がするような気もする。

 あの時はそれどころではなく、いかにあの天然パーマに痛い思いを見せてやるかで頭が一杯だった。



「ダメだ、あんま覚えてないや。結構ショック受けてたみたい。もっかい聞いて来るよ……ってギア先生いないんだっけ?」

「校長先生に会えたら早いのにね……。でもでも、校長室の行き方って大体の人は知らないし……。夕飯まで待ってみる……とか?」

「……そうだね! そうだよね! よし、もうちょっと寝てから活動する事にするよ! 反応されるの面倒だから、クリスとフルラは皆に会ったら言っておいて」


 フルラの言葉に甲斐はみるみる元気を取り戻していった。

 そうだ、その手があったのだ。


「そ、それはいいけど……。まあいいわ、カイだって一人になりたい時もあるわよね。私達はいつも通り月組のロビーにいるわ。もう卒業試験だけだもの、今更これ以上勉強する気になれないのよね。フルラと二人で遊んでいるから、気が向いたら来てね」

「……じゃあ、カイちゃん。じ、自殺とかしないでね! カイちゃんが死んだなんてなったら、エルガ君その場でネクタイで首絞めて死んじゃいそうだもん……見たく、ないよ……」

「急に生々しい表現しないでよ……。霊体になってエルガに追い掛けられたらもう逃げられなそうだし、今以上にヤバそう……。気を付けるわ」


 ポケットに手を入れるとそこには前にランフランクから貰った鍵があった。

 今後の事を話さなくてはならない。

 二人を若干強引に追い出すと、部屋の中心で鍵を手にして校長室へ続くドアを召還した。

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