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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第13章 さあ、行くよ
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第三百十八話 試験後の二人



「お帰りなさい! どうだった?上手く出来た? ……ううん、きっと大丈夫ね! あんなにカイもルーカスも頑張ってたもの!」



 甲斐が戻った時は、もうあと一時間もすれば夕食の時間だった。

 三年生は授業が無いので自習をしていたのだろうが、いつもの癖で甲斐が月組のロビーに入った瞬間に全員が立ち上がり、迎えに来てくれたのを見るとどうやら気にしてくれていたようだ。

 ルーカスは案外早く戻って来ていたようで、温かい紅茶をお手伝い天使に頼むと滝の様に砂糖を流し込んでから甲斐に手渡した。


「お疲れ様、ほら、これ飲んで」

「なんの嫌がらせ……? 血糖値を上げてやろうってこと? もしかしてさっき狂ったように入れてた白い粉は砂糖じゃなくてアウトローなやつ?」



 柔らかい笑顔で白い砂山が入ったカップを手渡してくるルーカスを拒否する。

 クロスは珍しくにこにこと笑って甲斐に顔を向けた。



「耐性ありそうですからね、あれだけ入れても死ななそうですし。そうだ、先輩ってどうしたら死ぬんですか?」

「クロスちゃん!? なんだその質問!? 嫌だね、絶対答えない! ……待って? 分かるよね? 心臓あるのあたしだけじゃないよね? なんで聞いたの?」


 クロスは甲斐をさも鬱陶しそうに睨むと、また本の世界に戻って行った。


「おいおい、カイ! 何ゆっくり紅茶なんて飲んでんだよ!? 手応えとかどうだったんだよ!?」

「……あれ? シェアト、ちょっとうるさい。ルーカス、ネックレスなんてしてた?」


 開いたシャツから華奢なチェーンが覗いている。

 トップの部分は服の中にあるらしく、どんなモチーフなのか見えそうで見えなかった。


「驚かせようと思ってたのに! ばれちゃったか……。これ、家族写真の入ったペンダントなんだ。前に話したのを覚えてる?」

「それって……あの、もしかして……」

「僕が知らない話だ。そうか、フルラちゃんといた時間は彼の方が僕より長いもんね。分かっていても、妬けちゃうな」

「いちゃこくなら防音設備の整った部屋でやれ! ったくどいつもこいつもなんだってんだよ。お前、魔力器返して来たのか!? 卒業試験受けてからにすりゃ良かっただろ!? もっっったいねええ」


 恋人同士をやけにやっかむシェアトがルーカスに憎まれ口を叩く。

 その顔は隠しきれていない喜びで綻んでいた。


「お前じゃあるまいし、ベインだってよく考えた結果だろう。……流れを聞く限り、それを引き換えに魔力器を借りていたのか? ……取り返せて、良かったな」

「うわああ……ナバロ、良かったけど良くないよ。あたしとルーカスはどっちが早く返せるか競争してたんだよ?あたしの負けじゃん、敗北者じゃん、負け犬じゃん! シェアトじゃん!」



 悔しがる甲斐にクリスは心配そうな顔になった。



「で、でも負けた方は勝った方に何かされるの? どういう内容の話だったのよ?」

「いいや? ただの競争だよ。それに、カイはわざわざ僕に自分がいつ魔力器を戻すかを教えてくれたんだ。実際、僕は先延ばしにしようとしていたから……カイのおかげで踏ん切りがついた。だから、実際は僕の負けだね」


 肩をすくめるルーカスの座っていたテーブルの上には積み上げられた古い画集があった。




 一年以上前の記憶が蘇って来る。




 そしてルーカスがどれだけこの魔力器を返し、自己否定の強かった自分が戻って来る事に対して不安感を抱いていたかを想像すると、トレントの地下室を訪ねる時もかなりの勇気が必要だったはずだ。

 いくらトレントに太鼓判を押されたからといっても、本当に今の自分と全く変わりが無いままでいられるかは戻してみるまで分からないのだから。


「どうしてカイが泣くの? ……それは良い涙として受け取ってもいいかな?」


 無意識だった。

 泣いている自覚は無かったのに、勝手に涙が両目から溢れて止まらない。

 鼻を思い切りすすると、焼けるようなひりついた痛みが走った。


「ううかす……いいおとこら……!」

「ありがとう、僕にとってはカイのおかげでこうなれた気がするんだ。僕は一人っ子だけど、君は僕にとって……とてもいいお姉さんだよ」


 そして二人は自然に抱きしめ合う。

 この雰囲気を即座に壊そうとするのは勿論シェアトである。

 だが、それをクリスが足を掛けて転ばせ、阻止した。


「ルーカス! 離れろ! やめろ! カイに触るな! クリス! いいのかよ!? だっ抱いてるぞ!? こらナヴァロ! 止めろ!」

「抱いてるんじゃなくて抱きしめてるのよ! 貴方本当に欧米人なの!? 親しい友人とハグをするのは別におかしい事じゃないでしょ!? このままキスに持ち込んで服を脱がし始めたら止めるわよ! それまでは黙ってなさい!」

「器がここまで小さいと大変だな……。何なら受け止めきれるんだ? 砂の一粒でも難しいんじゃないか?」

「……畜生! 畜生! おい! 俺も感動したんだ! 真ん中に入れてく……」

「だーまーりーなーさーいこーのーばーかーいーぬー!」



 シェアトが立ち上がるとすぐにクリスに髪の襟足を掴んで引っ張られている。



 このままでは本当に抜かれてしまいそうだと察したのか、ようやく大人しく甲斐とルーカスを見ていると、二人が離れたのはいいが今度は顔を見合わせて意味ありげに笑っている。

 シェアトが何度も突撃しそうになるのでとうとうビスタニアに睡眠魔法をかけられ、強制的に意識が退場して行った。

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