第三十一話 門番の掟
「さあさあ、戻ろうか! いい冒険だったね! 何回か先生方のお使いでここまで来たけど、やっぱり僕には美しい青空の下が一番だってことを実感させられるよ!」
早々に背を向けたのはエルガだった。
シェアトはトレントと甲斐の間に割り込んで、甲斐の腕を掴んでエルガに続く。
「なんで? あたしまだ魔法のアイテム貰ってないんだけど! 欲しい! 欲しいよおおお!」
「いいから行くぞ。話にならねぇ」
苛立っているシェアトを挑発するかのようにトレントが言葉を投げかける。
「不要ならそれでいいが、そいつの代わりなど寄越してくれるなよ? ワシが選ぶ物全ては本人と向き合い、選ぶのだ。代理人が選んだ物は代理人にしか合わない! 上手くいくなどあり得ないのだ!」
まくし立てるトレントに、フルラは身をすくめて急ぎ足で甲斐の傍に駆け寄る。
ルーカス一人がその場から、トレントを見たまま動けない。
「何やってんだよ! 行くぞ! カイなら魔力器が無くても大丈夫だ! 俺らが教えりゃいいんだから!」
シェアトは甲斐を見てぎょっとした。
ぐるん、と首をシェアトに傾けて目を見開いている。
「なんでって聞いてんだろ、耳は飾りかこの野郎!」
「ああもう、ちょっと待…… 目ぇ怖えよ!」
痺れを切らした甲斐は背伸びをしてシェアトにメンチを切っていた。
見かねたエルガが戻って来て、優しい声で話しかける。
「カイ、ここはね簡単に言うと宝物庫のような所なんだ。もちろん、僕達のように授業で必要な物があった時や魔力器を貰いに来たりしてもいい場所なんだけどね! 魔力器は、非常に高価な物なんだ。本当に驚く値段になる事もあるし、持てる人は昔はかなり少なかったらしい。細工や精度、それに一人一人に合った物が必要だから尚更ね」
「へえ……、結構簡単な物じゃないんだね。ていうかそれを貸して貰うの? 盗まれない?」
エルガの話の途中で質問をしても、嫌な顔一つしない。
「まず、ここの話を少し話してから説明するね。せっかちさんだなあ、カイは。 まあそれ位の速度を好まないと僕らの恋はつまらないよね!」
「この話が終わったらお前覚えとけよマジで」
エルガはどうやら何もかもを知っているようだ。
そしてやはり月組というだけあってか、頭の回転が速く話が分かりやすい。
「恋の進展のお約束かい!? よーし、張り切って行こうか! さて、どこまで話したかな?」
にこにことしたまま、エルガはぱちんと両の手を合わせた。
「そうだ、ここでは授業で魔力器を必要とする生徒がいた時に対応出来るようにと、かなりの数と種類の魔力器が用意されているんだよ。ああ、魔力器に限らずかなりの量の魔法道具があるんだけど……その一つ一つの管理や、性能の把握、人に合った物を選べるのが、このトレント先生って訳」
「一人で!? うわあ、完全に 仕事量と内容が罰ゲームレベルじゃん……」
その言葉にシェアトは愉快そうに笑う。
「それに滅多にここから外に出ないんだぜ? 囚人みてぇだろ」
「お前らは知らんのだ。どれだけの価値がある物がここに預けられているかを。魔力器など屁でもない。ワシが此処を留守にするなど恐ろしくて考えたくもないわ」
わざとらしく身震いをすると、トレントは埃の積もっている木箱を払わぬまま、腰を下ろした。
「だがな、どうしてもワシもここを出なければならない時もある。そんな時にも対応できるのは此処の仕組みだ。ここに納める物の重さは持ち込んだ者が決められる」
そう言い、おもむろに壁に手を付けると、手の付いている部分が水面の如く波打ち、手首まで発光する壁の中へと入ってしまった。
驚きの余り甲斐は声一つ出ないままだったが、すぐに引き出された手にはトレントよりも大きい金色の天秤が握られていた。