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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
番外編:バレンタイン編
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番外編:1 ビターの存在意義

「そういえばあの時ってクロスちゃんいなかったよね」

「どの時ですか、それで人に伝える気があるんですか? それとも言葉が不自由なんですか?」

「やーめーろ! なんでそうお前は喧嘩腰なんだよ! カイはそういう所も含めて可愛いからいいんだよ!」


 甲斐がクロスに話しかけるも、やはり嫌われているようだ。

 嫌悪感剥き出しといった表情のまま、突き放すように言うクロスを見兼ねてシェアトも間に入り込む。


「シェアト、カイは全部が可愛いんだ。だから含めるも何も、カイの全てを受け入れてようやくそこに愛が芽生えるのだよ!? 君は本当に駄目な上に阿呆だね!」


 シェアトが入り込めば、勿論エルガも入り込む。

 ルーカスはひらひらと手を振って降参のポーズを取った。


「はいはい、ご馳走様です。二人とも、犯罪の分別はしっかり付けておいてね」

「そうよ、私貴方がカイに相応しいなんて思ってないわよ?認めないわ!」

「く、クリスちゃん……? 姑みたいになってきてるよぅ」


 ウィンダムが愛しそうに目を細めてフルラの頭を撫でる。


「フルラちゃん、それは違うよ。言うなれば頑固親父だろう。ところでフルラちゃんのご両親は恋愛に関しては寛大かな? あと家族構成と住所、それから家族の好みの物を教えてほしいんだけど」

  

 休日だというのに月組のロビーには徐々に集まる人数が増えていく。

 馴染んだ顔を合わせて下らない事を話す、こうして過ごす時間がとても大切に思えているのは皆同じらしい。

 勉強の合間を見つけ、顔を出したビスタニアも話に加わる。


「それで、あの時ってどの時なんだ?」

「ナバロ! ほら、あのバレンタインの時!」







 もう、半年以上前になるのかと月日の流れを感じる。

 

 外の景色もまた冬へと戻ろうとしていた。

 思っているよりもずっと、この四季を体験できる回数は短いのだろう。



 二月十四日、バレンタインデーである。



 甲斐がいた世界では女性から男性へ想いを告げる日と言う認識だったが、それは日本特有のものだという事はなんとなく知っていた。

 しかしこの世界でのバレンタインでは男女共に特別な思いを込めるといった風習は無く、起源自体も魔法での戦いによるものや家族の愛、はたまた熱い友情の誓いとして等所説あった。


 その日が近付くにつれて、誰に聞いても違う答えが返って来る上に、なんと相手に渡す物さえも違っていた。

 メモを取る事もせず、会話の延長でバレンタインに付いて尋ねていた甲斐は、様々なバレンタインの形式全てが頭の中で混ざり合い、何が何だか分からなくなっていた。

 どうにか理解できたのはバレンタインに何かを渡すのであればお手伝い天使を捕まえて作ってもらうか、調理器具や素材とレシピを用意してもらう生徒が多いという事だ。


 クリスとフルラも甲斐が作るなら自分達も各自用意しておくと言っていたので、甲斐は意気込んでいた。

 甲斐は、思い返してみてもどうやら自分が料理をした記憶はほぼ無い。

 実家にいたというのを言い訳にしても、お菓子というのは買った方が安い上に旨いとさえ思っている。

 だが、女子といえば何やらカラフルなマカロニだかなんだかを作って来るようなイメージがあるので、きっと簡単なのだろうと高を括っていた。


 そして前日の夜にお手伝い天使を一人捕まえ、せっかくなのでと手作りをしたい旨を伝えると何故か頬を染めて天使とはかけ離れた下世話な笑みを浮かべ、きししと笑うと消えてしまった。

 部屋に戻るとそこは立派なキッチンルームへと変貌しており、調理器具や小麦粉に塩と胡椒、見た事も無い粉、カラフルな着色料の横には激臭のするスパイス、フルーツと野菜に米、巨大なチョコレートらしき物と卵などが所狭しと並べられていた。

 壁中にはお菓子のレシピがまるで壁紙のように貼られ、見ているだけで目がちかちかしてくる。



「……う、うわっ……。ここまでしたなら君が作ってくれてもいいのに……」



 得意げに甲斐を見ている外道な顔をしたお手伝い天使は、その言葉に酷くショックを受けているようだった。

 ラッピング用品も用意されており、何もかもが完璧だった。


 何故か戻ろうとしないお手伝い天使はどうやら本当にお手伝いをしてくれるらしい。

 小さな羽を忙しなく羽ばたかせ、甲斐の肩に近付くと、彼にあったサイズのラッパをどこからともなく取り出した。

 そしてこれまた小さな口に当て、息を吹き込むと、それは窓ガラスが激しく揺れる程の音量だった。


 甲斐の耳の中で、いや、頭の中でエコーが止まらない中、涙が自然に零れる。

 気付けば白いフリルのエプロンと髪の毛が綺麗に纏められて黒いバンダナを付けられていた。


「……せ、センス無っ……! 分かった、作る。作るからもうそれ吹き鳴らすな。次やったら消し炭にしてシェアトに送ってやる」


 再び大きく息を吸い込んだお手伝い天使を制止すると、腕まくりをしてキッチンに向かった。

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