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第三百十四話 クリスマスプレゼント


 夜も更け、イブを遅くまで楽しんでいた面々は睡魔と戦っていた。


 一方でシェアトは一人目を爛々と輝かせて、次から次にゲームやら思い出話を聞かせては反応の薄さに憤慨している。

 ウィンダムのこれでもかという位に付けられていたピアスが、金色のシンプルな牙のデザインのみになった事に全員が気が付いていたが、それについてはあえて触れなかった。


 日付もあと少しで変わろうと言う時にシェアトがようやく欠伸をしたので、それを皮切りに皆片づけを誰からともなく始めていた。


「もうお開きかよ!? つまんねぇな! ガキじゃねぇんだからせっかくのクリスマス、もっと楽しもうぜ!?」

「はしゃいで眠くならない方が子供だと思いますけど? それに今日の夕方までしっかり寝ていた人に言われたくないですよ」


 立ち上がったシェアトを相手にする元気が無いらしい。

 クロスはただ大きく伸びをしてソファに沈み込んだ。


「ごめんね、昨日ナバロとエルガで朝方までエンジョイしてたからもう眠くて……。クリスマスから年越し辺りまでは食事がいつも以上に豪華だから、食べ逃したくなくてちゃんと朝ご飯も食べたんだよ……。もう、朦朧として来てるし……ベッドに行きたい……」


 甲斐はぐらぐらと揺れる頭をそのままに、眠そうに目を擦っている。


「はああ!? おいこら、俺のカイと昨夜はお楽しみだったのか!? あーあー! そりゃあいい夢が見れるだろうよ! でもなあ! こちとら昨日までファミリーと一緒に和やかな雰囲気だったんだ! それにずっと家にいて、見たくもねぇクロスの顔を見ながら食事だったんだ! 少しは俺に付き合ってくれてもいいだろ!?」


 激しく一人一人に悲惨さをアピールしているが、同情的な視線は得られない。

 クロスはクッションで両耳を塞いでいる。

 

 こんな時のシェアトのなだめ役はルーカスしかいない。

 皆の視線に応えるようにルーカスは立ち上がり、シェアトへ話しかけた。


「……はぁ、少しは落ち着いた雰囲気になって戻って来るかと思ったけどやっぱり人は早々変わらないもんだね。年越しはちゃんと皆で起きていよう、それでいいだろ? シェアト、僕ももう眠たいな」

「ははは! 睡眠不足は美容の天敵さ! それよりシェアト、君ちょっと太ったんじゃないか? まあ、母君の料理がどれだけ美味しかったかは実感したよ。パイもローストビーフもかなりの腕前だね。分からなくも無いけれど、人は制御出来る生き物なんだから同じ日数を実家で過ごしても体型に変化の無かったクロスを見習いたまえ! あと美しさにおいては僕だけを見習いたまえ!」



 ルーカスのまっとうな意見は、全く眠気とはほど遠そうなエルガの声に掻き消されてしまう。



「だらしのない奴だ……。それにしても、ウィンダムはいつの間にかインラインとまたイルミネーションを見に行ったようだが俺達はこのまま部屋へ戻るか?」

「あらあら。……そうだ、思い出したわ! フルラの薬指見た!? 結婚指輪よ、あれ! しかも女の子に人気の憧れブランド『EMS』の! セレブ御用達のブランドなのよ! 凄いわね!」


 あれだけ眠そうだったクリスの目が開き切った。

 

 気が付いてはいたが、どこの何を意味する指輪かまでは誰も知らなかった。

 甲斐がフルラにウィンダムからのプレゼントかと聞いた際に、ゆでだこのようになってそのまま卒倒しかけていた理由がそういう事だったのかと合点がいった。


「はいはい、 俺はそんなエムズだかドエムだかのブランドなんて用意してませんよ。ほら、これやるよ。気の利いたもんじゃねぇけど」


 ぽんと軽く投げて甲斐の膝の上に乗ったのは髪留めだった。

 細かな細工がされているが、可愛いというよりもかなりいかつい銀細工のようだ。


「別に学校にいる間は使わなくていいよ。……部隊に入ったら、その長い髪の毛まとめないとなんねぇだろうし。でも切るなよ!? 似合ってるから!」


 まじまじと見ている甲斐を見ずに照れ臭いのか手を付けていなかった片付けに精を出し始めたシェアトの表情は誰も見えなかった。

 その隙をついてビスタニアは甲斐の手に小さな箱を乗せた。


「キャンドルだ。炎を灯せばこの世界の何処かが見える。願いながら灯せば同じ時間の願った人が見える。アロマも含めてあるから置いておくだけでも香るはずだ」

「……シェアト、ビスタニア。ありがとう……。あたし、無一文だし……その、何かお返し出来るような物を持ってないんだけど……えっと、ごめん。でも卒業後は覚えといてね」



 にやりと不敵に笑う彼女の笑顔にシェアトは薄ら寒い物を感じ、身震いする。



「怖ぇよ。なんで礼参りみたいな言い方すんだよ。それにいいよ、お前からバレンタインだって貰っただろ。肉だけど。お返ししてなかったしな」

「そうだ、珍しくバカが良い事を言った。どんな奴にも人生に一度くらいまともな時もあるもんなんだな。お前からは、返しきれない程に沢山貰っているんだ。これ以上借りを増やされても困る」


 甲斐を間にシェアトとビスタニアが話す中で、クリスはそこへ入ろうとしないエルガを小突いた。


「あら、モテモテね! エルガはいいの? 珍しいじゃない、カイ絡みで大人しくしてるなんて」

「そうかい? 僕はもう、戦線離脱しているんだよ。こんな特別な夜に部外者が入り込むなんて野暮じゃないか」

「あれ、エルガ先輩もう戻るんですか? じゃあ、僕も一緒に戻ります。このままだとまだまだ長引きそうだ」


 そう言うなり、エルガは大袈裟に欠伸をすると階段を上がって行ってしまった。

 後を追うクロスは一度振り返って可愛い笑顔のまま、メリー・クリスマスと呟いた。


「……ルーカス? どうしたの、そんな深刻な顔して」

「……いや、なんでもないよ。ただ、ただちょっと心配になっただけだから」

「ああ、エルガ? 意外よね、誰よりもカイの事ではうるさいのに。まあ、大人になったって事なのかしら?」

「……だと、いいんだけどね」


 どこか、ルーカスを不安にさせたのはエルガの瞳に宿っていた暗い影のせいかもしれない。

 今、彼を追いかけるべきかと考えてみたが何故甲斐にプレゼントを渡さないのかと問い詰めるのもおかしな話だ。

 彼の中でどこか、何かが少しずつ着実に変わっていくような気がした。

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