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第三百十三話 集結



「おいおいおい……お出迎えもナシかよ……!? どいつもこいつも薄情だな! ふざけやがって!」



 頭にトナカイの角を生やし、服はサンタクロースの衣装を着て、肩に担いでいる白い袋はパンパンになっているシェアトの出で立ちは随分とご機嫌なものだった。

 シェアトの後に魔方陣から現れたクロスはふざけた格好の兄を足で追いやると、両親からこれでもかというほど持たされたお土産の袋を重そうに持ち上げた。


「一番ふざけてるのは兄さんの格好ですよ……。そうまでして人の笑いを取りたいんですか?いいですか、あっても嘲笑ですよ。笑われてるんですよ? ……僕から離れて歩いて下さいね、二キロ位」

「馬鹿野郎、もう俺の姿は吹雪なら目視出来ねぇぞ。ったく、イブだからって張り切り過ぎだぜ……母さんは。本当は昨日帰ろうと思ってたのに、あんなに張り切られたんじゃ帰りにくいじゃねぇか……」

「いいじゃないですか、僕より沢山食べてたんですし。それにそのおかげでお土産だってこんなに貰えたんですから」


 クリスマスという事で食材を買うついでに、シェアトの好きな女の子へのプレゼントをと、昨日は両親共に張り切って街へと二人を連れ出していた。

 やいのやいのと横やりを避けながら、どうにかシェアトはプレゼントを選んだのだが、甲斐は昨日の内に誰かから何かを貰っただろうか。


 本当は朝早いうちに帰って来る予定だったが、久しぶりに映画を見たり、今流行っているというドラマや、クロスが絶対にチャンネルを譲らなかったので渋々付き合って見たヒーローアニメのせいで夜更かしをしているとあっという間に朝になってしまった。

 それでも生活リズムを崩さないクロスが起きて来た時に、シェアトは欠伸をしながら部屋へ戻り、仮眠をとると言ったきり、もう夕焼けすらも終わった頃に起きて来たのだ。


 慌ただしく髪の毛を撫でつけながら、テーブルに並んでいるチキンを一つ掴むと服を探したが全て洗われており、瞬間乾燥の魔法の付いた洗濯機が未だに我が家に登場していない事に絶望していると、トムの用意したサンタの衣装が目に入った。

 部屋のクローゼットの洋服は本当に自分の物なのか疑わしい程に小さく、シャツに至っては肩幅が邪魔してボタンが留まらなかったのだ。


 悩んでいる暇など無かった。

 サンタの衣装を上下ともに着ると、それには余計な魔法が掛かっていたらしく頭からトナカイの角が出現した。

 トムは大笑いをしながら一連の流れを映像に納めて、妻を呼びながらどこかへ行ってしまった。



 馬鹿に構ってはいられない。



 昨日買ったプレゼントを持たなくてはと部屋へ駆け戻ると、タイミングよくクロスが部屋から出て来た。

 弟の見せたあの目は忘れられない。

 軽蔑と、不快さが入り混じった屈辱的な視線を無視してプレゼントを探していると、下から呼ぶ声が聞こえた。


 行ってみれば、ジュリアがサンタが担いでいるであろう白い袋を差し出してきた。

 彼女へのプレゼントとお土産を入れておいたから、とジュリアが何がそんなに嬉しいのかにこにこと笑って言った。

 あと一秒でもジュリアの言葉が遅ければ、危うく聖なる日に母親へ大変な失言をする所だった。


 どうにか思い留まって、荒くなった息を整えながらお礼を言うと最後に記念撮影だとトムが言い、こういう時こそ普段の生意気さを発揮すればいいのだがクロスも自然と両親の間に立ったので、抗い切れずにこの間抜けな格好で映る事となった。













 どうにか夕飯までには戻れると思い、甲斐もさぞかし自分の帰りを待ち侘びているだろうと息勇んで帰って来たが、どこにも級友たちの姿は見当たらなかった。


「ちくしょう! 食堂か!? あんのナバロ野郎!」

「ビスタニア先輩が一体何をしたと言うんです? 『ちくしょう』は貴方の弟として僕をお作りになった神に対して僕が言いたい言葉ですよ。前世で僕は一体どんな重罪を犯したんだ……」

「オーケー、クロス。分かった、お前の気持ちはよく分かったからもう口を開くな。俺が温厚な内にやめろ」

「よくそんな恰好で凄めますね。あーあ、クリスマスにこんな人間かどうかも分からない見かけの人と何が悲しくて一緒にいなきゃならないんだか。ほら、さっさと食堂行きますよ。食べ物が入ってるから、あんまり乱暴に袋を扱わないで下さいね」


 食堂にはシェアトが探していた人物が勢ぞろいしていた。

 黒髪兄弟の帰還に一同が湧いたが、ビスタニアはシェアトを見た瞬間に汚い物を見たとでも言いたげにハンカチで口元を押さえていたが、久しぶりに会う甲斐との会話にシェアトは夢中でそれどころではないようだった。


 クロスはビスタニアに連れて来てもらっていたトライゾンが、嬉しさのあまり口から炎や電撃を吐き出し続けて困っていた。

 やがて時間が経ち、落ち着いた頃にトライゾンはクロスに飛びつき、全く離れようとしなかった。

 クロス本人は気にした様子も無く、肩に乗られたまま澄まし顔で席についてフェダインの味を堪能し始めた。

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