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第三百八話 賢者の決意

「本当に簡単に言うと、この世界中の全人類を見ている機関です。その仕事量の割に案外少ない人数で構成されています。『観測者』ですが、たった一人らしいです」


 感心しているような声をあげるシェアトを、この優秀な弟が許すはずがない。


「……兄さん、習ったはずですよ。いくら筋肉馬鹿の太陽でも、世界的機関の授業はするはずです。……そうは言っても、『観測者』なんてなりたくてもなれないんですがね。この観測者が主動力です。うちの校長クラスでないと直接は会えないような人ですが……機関に入れば会えるみたいです」

「な、なんだよ。じゃあそいつに俺達はいつも見られてるって訳か!? き、気持ち悪ぃな。あんな事やこんな事までもか!? どうすんだよ! そんな趣味無ぇぞ!」


 手をぶんぶんと振りながら、シェアトは上下左右を見渡した。

 クロスは害虫が目の前にいるような目をしている。


「この世界の人口、七十億に近いんですよ? その人達の行動全てが観測者の頭に二十四時間入り込んでるんですよ? 兄さんみたいなゴミ、ん? ゴミみたいな兄さんなんて……。とにかく、僕のその機関ではどの人間が怪しいとかこういう動きをしている奴はいないかとか、様々な場所から調べて欲しいと言われる情報を整理して観測者に依頼する役目があるんです。観測者自体は全てを記憶していますが、何が問題で誰が敵かなんて考えていない人らしいので。……いわば、データバンクのようなものですね」

「それほど世界的にも重要な機関であれば、安全そうだな。激務かもしれんが……」


 聞いた事はあっても、詳しい内部事情などこの世界の何人が把握しているだろう。

 トムはあまりにも出来が良く、物知りな息子に少しばかり寂しそうな顔をしている。


「いや、休みも就業時間もしっかり保障されているみたいだよ。一人しかいない観測者以外はね…。通勤は特殊なスポット……ああ、そこで働く人だけが通れるテレポートの場所があるんだけど。そこを使えるらしいから毎日帰って来られるよ。正確な会社の場所や、業務に関わる内容は一切他言できないけどね」

「なんだ、俺の場所とかをお前が見るわけじゃないんだな。観測者さんとやらに頼まないといけねぇんじゃねぇか。いいのかよ? 職権乱用じゃね?つーか、気に入られないとそんな個人的なお願いなんて聞いてもらえねぇだろ」

「そこは上手くやるつもりだけど……。そんな馬鹿にした言い方してくるけど、そもそも兄さんがちゃんと帰ったり、連絡を家にしてくれるなら僕が頼む必要も無いんだけどね。とにかくもう試験は受ける予定だし、今のままでいくと合格率は八割らしいから。卒業試験で首席狙うより全然楽だよ」


 ふっと苦笑したクロスは、ようやく肩の荷が下りた気がした。

 サクリダイスに提案されていた学年主席で卒業をすれば、シェアトの推薦を取り消すという条件は全く気にしていなかった。


 それは勉強に対してやる気が無いという意味ではない。

 むしろ俄然、強敵に挑もうという情熱が沸いていた。

 あの深夜の森でエルガとビスタ二アの戦いを見ていた時、なんとなくだがこの人たちには敵わないような気がしたのだ。

 そんな気持ちに、このままではシェアトを止められないという焦りは生まれなかった。




 もう、いいのだ。




 人の人生の邪魔をするという事こそが、どれだけ自分勝手なものか思い知った。

 シェアトを自分勝手だと罵った自分こそが誰よりも利己的だったのだ。

 兄を信用出来なかっただけだ。


 むしろそんな事よりも、自分がやりたい事を探したいと思った。

 辛くても、眠い目を擦りながら勉強に励む先輩の姿は羨ましかった。

 首席を取り、シェアトを止め、そしてサクリダイスの元で飼い殺されるこの先を考えてみたが魅力などどこにも無かった。


 動くのは、今しか無かった。

 選んだ条件は、両親に言った通りだ。


 一度は阻もうとした兄の道を、今度は自分がサポートしたいと思った。

 観測機関は時折、政府の命で動く特殊部隊への情報提供やバックアップをする事がある。

 入るならこの機関しかないと、思った。












 僕は、後方支援に回ってみます。

 今までどれ程、僕の背中を押してくれたか覚えていませんが。

 まあ、二年先に生まれた分見守るぐらいはしてくれたんでしょう?

 

 だから、今度は貴方を見守るんで。

 きっちり借りは返します。

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