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第三百七話 クロスの進路

 セラフィム家では久しぶりに家族が勢揃いした事もあり、話す事は尽きなかった。

 両親共に顔を知らぬ甲斐についてしきりにシェアトに聞いてみては嫌がられ、クロスからは彼女の起こした奇想天外な事件や行動ばかりが口をついてくる。


 何度か一応彼女は一番年上なのだからとジュリアはクロスを母親らしい口調でたしなめたが、聞いていく内に嫌っている訳ではないことも分かってきた。


 命に責任を持てないからと言って、これまで生き物を飼いたいなんて一言も言った事の無い次男が今はなんと龍を飼っているというのだから分からない。

 長男の方は幼い頃から虫や得体の知れない何かしらを拾ってきては世話などせずに放置して、結局トムが面倒を見ていた。

 そのせいで何度も家中に妙な粉を撒き散らす蝶や、勢い良く飛んでは壁に角を突き刺してそのまま息絶える硬い虫で溢れ返った。

 そういった奇想天外な出来事のせいでクロスの生き物嫌いが発症したのかもしれない。

 それもまた、口にすれば大昔と息子達に揶揄されるがジュリアからすればたった一年前ほどの出来事に思えた。


 思い出話をしながら初日の夜を終え、二人は自室で眠る。

 それぞれが寝静まった頃、トムが少し仕事を片付け、眠る前に息子達の寝顔を覗きにそれぞれの部屋を訪れた時に堪らず吹き出してしまった。

 どちらも同じように口を少しだけ開き、こちらを向いて同じ寝相で眠る二人はやはり兄弟だった。




 翌朝、張り切ったジュリアがフェダインの朝食かと錯覚するようなボリュームとメニューをテーブルに並べていると二人は一緒に起きてきた。

 だらしない顔をしているだとか、もっと朝はしゃっきりとすべきだとか延々と文句を良い続けるクロスを後ろ足で軽く蹴ったシェアトをトムは目でいさめた。

 しかし、どちらもフェダインに入る前に比べると関係が改善しているのは大きな進歩だった。


 寝起きのせいか、掠れた声で二日後のイブをここで過ごしたら帰るつもりだとシェアトが言うと、クロスは睨みを利かせた。


「分かったよ。家族と過ごすのも大切だが友人と過ごせるのは今年が最後だ。父さん達もそちらを優先して欲しいと思っている。なあ、ジュリア。それに夫婦の仲も良好だから……うん、むしろ助かるよ」

「朝からやめろよ生々しい……。母さんもにやつくな! 女出てるぞ! 俺達の前ではせめて鍵付きの金庫にでも仕舞い込んどけ!」

「兄さんみたいなタイプが今後、もしも生まれたら僕は家出しますからそのつもりで」

「クロス、お前もちゃんとイブには兄さんと一緒にフェダインへ戻るんだぞ? ……そうだ、まだ進路を聞いていなかったな。今回卒業試験を受けるのだから、その先はどうするつもりだ?」



 スプーンからシリアルをぼたぼたとこぼしたクロスはこちらが驚くような顔をしていた。

 シェアトの進路の話に意識を全て持って行かれ、つい自分の事を忘れてしまっていた。



「忘れてた……! あ、いえちゃんと決めてはいたのですが……! 去年はこんなとんとん拍子に飛び級できるなんて思ってもいなかったから、そんな話もしていませんでしたよね……。僕はやはり父さんと母さんの事も心配ですし、毎日は難しいかもしれませんがなるべく帰って来られる仕事をと思い、探していました。ああ、あとはついでに兄さんの動向も分かるといいなって条件も含めて」

「ああ、ああ、そうかよ。卒業すりゃ連絡ツールも魔法も使い放題だぜ? 二十四時間繋いでやろうか?ヘイ、クロス! 俺は今トイレに行くぜ! 見てるか!? ってな! 風呂もしっかり繋ぐから、見逃すなよ!? 俺のその日履いてた下着の色がなんだったかちゃんと聞くからな!」

「……これだから馬鹿と話すのは嫌なんだ……」


 深いため息をついて首を左右に振るクロスはひらりとシェアトの拳をかわす。


「部隊に入ったらそうそう簡単に帰省なんて出来ないでしょう!? それにいつどこで兄さんが任務にあたっているかなんて情報が出るわけもないし。だから僕がそれを分かるようなところに就職しますって言ってるんじゃないか!」


 それだけ言うと、しまったという表情をしてクロスは黙り込んでしまった。

 シェアトはしてやったりという顔をしてもう牛乳と同化しているガラスボウルにシリアルを追加した。


「クロス、気持ちは嬉しいが私達は大丈夫だよ。兄さんだってお前より二つも年上なんだ。その辺りはきっと上手くやるさ。そうだろ、シェアト? まさか数年間も所在不明なんて事にはならないよなあ?」

「いえ、兄さんの言葉を信用する位ならまだ他人の方が信用に値します。それに、僕の頭と要領をもってすれば大体の所には入れますし。もう、志願している機関があるんです」

「あら、そうなの? 我が家の可愛い坊やはどこに行ってしまうのかしら?」

「……母さん達にはあまり馴染みが無いかも知れませんが、『観測者』と呼ばれる人のいる『世界観測機関』です」



『観測者』



 ふと、どこかで聞いた言葉だとシェアトは霞がかった記憶をたぐり寄せる。

 以前、甲斐を日本から連れ戻したときにランフランクが防衛機関は彼女の出現に早い段階から気が付いていたという話だ。


 エルガはその後小さな声で『観測者か』と呟いていた。

 大して気に留めずにいたが、クロスの入ろうとしている機関がどういったものなのか知る必要がありそうだ。

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