第二十七話 魔力器ってなんですか?
「はい、こんな感じだよ。移動教室の時は慣れるまでシェアトに付いて行けばいいからね」
知書室でルーカスが描いた学校の地図を全員覗き込んでいる。
地図といっても簡易的なもので、東西南北・中央と書かれた丸印とそれぞれに西館に太陽・東館に月・南館に星とそれぞれ書かれている。
そして最後にルーカスは右手の人差し指に金色の上下に縁取りの細工がされた透明な石のはめ込められた指輪をはめ、地図の東館に指を付けると『我はここにあり、我の影は何処』と呟くと小さな人型のマークが出た。
「はい、これが今いる場所だから。慣れたらこの地図もいらなくなるだろうしね」
「おおお! 初の生魔法だ! その指輪に秘密があるの!? ちょっとおー貸しなさいよールーカスくーん」
甲斐は手を怪しく動かしながらルーカスに近づいていく。
「ああ、最初がこんな地味な魔法でごめんね。この指輪は、前にエルガが言っていた魔力器だよ。僕はあんまり魔法を使うのが上手くないからね」
困ったように指輪を隠しながら笑うと、エルガは鼻を鳴らして抗議する。
「なんだい、魔力器をしていたからって魔法の力が落ちる訳でもないんだし気にしなくてもいいじゃないか!」
エルガは甲斐がこれ以上ルーカスに近寄れないように間に割って入った。
「シェアトなんかどうだい! 手の上で炎を操る合同授業の時なんて、隣にいた僕の美しい髪の毛に引火させたんだ! 初めて人に殺意を抱いた瞬間を僕は忘れない! 忘れるものか! シェアトは魔力器どころか一から魔法を習い直した方がいいんじゃないかと思うよ!」
「だからそん時も声が枯れるまで謝り続けたじゃねえか! それに魔力器は大人だって使ってる奴もいんだから、んな気にする事じゃねえよ」
「魔力器って、なにする為の物なの?」
説明が難しいのか、甲斐に理解出来るようにと文を考えているのかルーカスは黙ってしまった。
シェアトはこの中の誰かが説明するだろうと肩をすくめている。
エルガは口をパクパクさせていたフルラに頷き、彼女へバトンを譲る。
「あ、あのねぇ、そもそもは使いたい魔法に対しての力を自動で調整してくれるものなんだよぉ。上手に調整が、その、出来なくてセラフィム君みたいになっちゃうと危ないでしょぉ……」
「うるせぇよ!」
シェアトの怒鳴り声にフルラは首をすくめて甲斐の後ろに隠れる。
フルラの言葉の後をシェアトは鼻を鳴らして引きついだ。
「それに、若干発動するスペル間違えても補正してくれる奴もあるし、高度な魔法の短縮も登録できるしな」
ちらちらとシェアトの顔色を見ていたフルラはやはり怒鳴られ、またもさっと甲斐の後ろへ隠れてしまった。
手探りでフルラの結んでいる髪の毛の両方を掴んで前へ引っ張ると、甲斐の背中にフルラはめり込んでいく。
「なんだ、めっちゃいいじゃん。逆になんで皆はそれを付けないの?」
「俺とお前みたいな攻撃魔法を使うんだと、如何に破壊できるかとか威力が重要な世界になってくるからな。そんな微妙な調整とかしなくていいし、むしろ調整されると戦力外になっちまう。魔力器を使うのはルーカス達の星組だと多いんだぜ。医療分野の魔法だとすげえ細かいんだよ、どの位の力出すかとか」
「そうさ! だから適した者が使える、いわば選ばれし秘密道具! なのに どこぞの組が何か勘違いをしているから肩身が狭いんだよ!」
腕を組んでしかめっ面をするエルガをシェアトは思い切り睨みつけた。
「おめぇらのとこだよおめぇらの!」
まだ離してもらえていない髪の毛をシェアトも甲斐を挟んで引っ張ると、何とも言えない悲鳴が聞こえてきた。
「あぅあぅああああ……ごめっごめなさっああああ!」
「勘違いって何? でも月組ってなんか色濃いよね」
「そんなことないよぅおおお。は、離してえぇえ!」
フルラもエルガと同じ月組だが、彼女は彼女で癖が強いとこの場にいる誰もが思った。
「ああ、なんか基本的に月組はエリートな家庭の奴が多いしな。頭は良いんだけど、変な奴は多いぜ。勘違いっつうのは、魔力器使用者は一人前じゃないとか思ってる奴らもいるんだよ!」
「ははは、僕に関しては頭も顔も性格も良いからね! 月組の太陽みたいなものさ!」
「僕も早くこれが無くてもいいように頑張ってはいるんだけどね…」
どうもこの話はあまり好きでは無いようで、ルーカスはどこか悲しそうな笑顔を浮かべ、もう一方の手で魔力器を隠してしまった。
「じゃあ、競争だね」
「えっ? 競争?」
にかり、と甲斐は戸惑うルーカスに笑いかける。
「あたしは魔法自体使ったことすらないから、最初は魔力器なんでしょ? だから、どっちが早く無くていいようになれるか競争しようよ」
「それはいいね! ああ、甲斐はなんて頭がいいんだい!? 本当、どうして月じゃなかったのか今でも腑に落ちないよ!」
「本当、心から月じゃなくて良かったと今でも神に感謝してるよ。まあ、そういうわけだから頑張ろうねルーカス」
「もう……、負けないよ? 僕」
にやっと笑う甲斐を見て顔を赤くさせたルーカスはシェアトにどつかれ、エルガに追及され、フルラには小さな声で頑張って、と言われた。
五人が司書から注意を受けるのはほんの数秒後の事である。