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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第1章 君に出会って
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第二十六話 友達なら手を叩こう

 突然現れた、というよりも休日は教員達も好きな時間に食事に行けるので、朝食を摂りに来たランフランクが入り口付近のこの騒動に気付いたのだろう。

校長の登場を見るなり、クリスと女子達は姿勢を正して挨拶をする。


「おはよう、皆。カイ、太陽組か。応援しよう。さて、君は前を見て走らなければいけない。たまたま私がいたからいいものの、周りと状況を判断しないと時に後悔する事になる」


 甲斐がただ走っていてぶつかった、ということにランフランクはしてくれたようだ。

 そして、まるで喧嘩を買う時の忠告にも聞こえる注意をして今度は巻き髪の少女を見る。


「そして口が過ぎるようだ。星組の君は、医療も学んでいるはずだ。人となりや思いやりをどの組よりも重んじなければならない。我が校の星を名乗るのであれば、だが」

「申し訳……ありませんでした」


 巻き髪の少女の謝罪は、校長の目を見たものでもなければ甲斐に向けられたものでもなかった。

 ただこの場を納めようとしているだけのものだ。

 それをこの場にいた誰もが分かっていたが、ランフランクは追及しなかった。



「さあ、朝食にしよう。もう料理は出来ている時間だぞ」



 二人の肩を叩いて二人の体を自由にすると、ランフランクは悠然と杖をつきながら席へと向かって行った。

 甲斐を思い切り睨むと巻き髪の少女はクリス達を置いて出て行ってしまい、取り巻きも敵意のある目を向けてから後を追って行った。

 残されたクリスは、床を見たままゆっくりと食堂を後にした。


 ランフランクに肩を叩かれた時に、甲斐の胸ポケットに何かが滑り込んだ。



「おいおいおい。びびらせんなよ、あんな突進してくと思わなかったぜ! 闘牛かよ!」


 さっきまで眠そうだったはずのシェアトは、盛り上がりを見せていた。


「怪我しなかった? ごめんね、気付くのが遅れて……」


 ルーカスは心配そうに甲斐とフルラどちらにも目を向ける。


「全然平気。ねえ、これ……」


 胸ポケットをまさぐってみると、大きな金属らしき物に指が触れた。

 そのまま引き上げてみれば、それは初日にギアが使っていたのと同じ鍵に見えた。


「それ、校長室の鍵じゃないかな? そうか、甲斐は何かあった時にすぐに行けるように必要なのかもね」

「よし、今朝みたいに帰るのが面倒な時は使わせて頂くことにしよう! ふっふっふ~。……朝ごはんにしよっか」

「だな、気分入れ替えようぜ!」


 ようやくいつもの表情に戻ったエルガは甲斐に微笑みかけたが、その笑顔は返って来る事は無かった。

 甲斐は再び鍵をポケットに入れるとテーブルで顔を真っ赤にさせて固まっているフルラに駆け寄って行った。


「お腹空いたね。これあげる」

「……あのぉ、トウドウさん……?」

「これもあげる、こっちはルーカスにあげる」

「ありがとう、カイ。この妙に体力がみなぎりそうなスタミナメニューに他意は無いよね? たまたまだよね?」


 騒ぎを起こして悪いと思っているのか、どんどん周りの皿へ料理を積み上げていく。

 フルラは下を向いたまま、何度か甲斐に呼びかけているのだが無視され続けている。

 恐らくまだ先程の注意通り、ファーストネームで呼んでいないのと敬語だからだろう。


「……か、カイちゃぁん……」

「あ、ごめん。フルラってもしかして海老ダメだった?」

「ううん、大丈夫だけどぉ……さ、さっきから私に海老系ばっかりくれるのはなんでぇ……? って、そういうことじゃないのぉ!」

「なんかフルラの顔の横の髪の毛……触覚? とか似てるから。で、なーに。はいシェアト、ピザ盛り合わせ」


 フルラの視線をかいくぐり、シェアトへピザを両手で抱えるようにして皿に移す。


「おう……って、おい! 大皿のピザ全部乗せただろこれ! 取り分ける意味あんのか!?」

「さっきぃ……ありがとぉ……」


 紅茶を口に運ぶ途中だったエルガ、目を丸くして分けられた山盛りのピザにタバスコを垂れ流し続けているシェアト、辞書ほどの厚さのステーキを汗をかきながら切っていたルーカスは全員手を止めてフルラを見た。

 甲斐は黙々とテーブルに広がっている料理を取り分けながら、皆の視線にようやく気付いた。


「いいよ、海老好きで良かった。共食い……」

「違うよぉおお!? そうじゃなくてぇ、さっきぃ……私の事、悪く言ったから怒ってくれたんでしょ……?」


 申し訳なさそうな笑みを浮かべて、小さくなってしまいそうな声を必死で絞り出している。


「ああ、目の前で友達の事を悪く言われたら頭にくるでしょ。それに一回脅しときゃもうしないんじゃない?あのゴミに知能があるなら、だけど」

「でも、それでも……嬉しかったのぉおお……」


 目に涙をためて、隣に座る甲斐を必死の形相で見つめながら振り絞るように言うと、甲斐はにやりと笑ってまた海老をフルラの皿に積み上げていく作業に戻った。

 二人の様子を見て、止まっていた三人も目を合わせると眉を上げてノルマが増える前に山盛りの料理を消化し始めた。

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