第二十五話 Q.誰が悪い?
早朝の匂いの中、食堂へ行くと早朝とはいえもう席について軽食を食べているテーブルが幾つもあった。
休日以外に関しても必ず集まらなければならないといった規則は無いのだが、料理の味とメニューのレベルが非常に高く、来ない生徒はまずいないそうだ。
朝・昼・夕と食事が提供されるが、やはり休日の朝は顔を出す生徒は普段に比べると少ないらしい。
日頃の疲れなのか、授業の無い日は睡魔には勝てないようだ。
円卓に五人が座ると、お手伝い天使が寄って来て朝食までの残り時間用のスコーンやジャムを用意してくれた。
「と、トウドウさんはぁ……太陽なんですねぇ……。残念……」
「名前で呼んで、あと敬語禁止。そうなんだよね、寮違うのは確かに残念かも」
しゅんとするフルラの頭を軽く叩きながら、入り口から入って来る生徒達をぼんやりと見ていた。
そしてその中に、見知った顔を見つける。
昨日は月明かりの下だったので、確証はないが女子達の輪の中心にいて笑っているあれは、クリスだろう。
すらりとした体系に、少し気の強そうな顔立ちだが彫りが深く、美人だ。
だが、クリスの周りの女子達も皆、随分と顔の綺麗な子ばかりで周囲から目立って見える。
どこに座るかを話しているのか、ちょうどこちらを見た時にクリスも甲斐とルーカス達に気付いたようだ。
綺麗な笑顔をこちらに向けて軽く手を振ってくれている。
「クリス、手振ってるよ。いえーい、ヘイシスター!」
「え……? ああ、本当だ。 カイ、ちなみにその挨拶は間違ってないけどおかしいよ」
甲斐に言われてようやく目をこすっていたルーカスのピントが合ったのか、二人で手を振り返す。
するとクリスの周りの友人達もこちらへ注目し、はっとしたように数人が話し出した。
彼女達の話し声は高く、ざわついている食堂内で離れていても多少聞こえてくる。
「見て! あれ、シェアト君たちじゃない!? ラッキー! 一緒に食べようよ~!」
クリスの横で気合の入った巻き髪の女子が言うと、スーパーショートヘアで猫目の女子はエルガを見つけてはしゃぎ出した。
「あっ、エルガもいる! 行こうよ行こうよ!」
「あの子編入生の……? 組どこだったのかしら……同じだったらやだなあ。なんかバカっぽいんだもん」
髪を巻いている女子生徒は目を細めてフルラを睨んだ。
「しっ! 聞こえるよ! 待って……編入生の隣の子、トマトちゃんじゃない?」
巻き髪の女子はわざと聞こえるよう、ワントーン高くしてフルラを指差し、笑った。
スーパーショートヘアの女子はくぐもった声で真似を始める。
「うっわ、ほんとだ。なんでなんで~? あ、どうせ喋れないんだしいてもいいんじゃない?こ、こ、こんにちはぁ~とか言っとけばオッケーオッきゃあっ!」
一瞬、だった。
甲斐が席を立った途端、飛ぶように走り、クリスの横にいた巻き髪の少女の襟首を掴み、自分の体ごと押し倒した。
唖然としている女子全員を見ながら甲斐は言う。
「自分達が悪い事言ってないと思うなら本人の目を見て言ってみなよ。あとね、汚物見ながら食事なんて出来るわけないでしょ。一緒のテーブルなんてふざけた事考えてんなよ」
馬乗りになったまま、甲斐は女子生徒に眉を寄せ、落とすように話す。
「ちょっと離してよ! あんたやっぱり頭おかしいんじゃないの!? どいて! どけって!」
「へえ、最近の汚物って怒るんだ」
クリスがおずおずと、困ったような表情で甲斐に話しかける。
食堂はとても静かだった。
「カ、カイ……。ごめんなさい、彼女達が失礼な事を……」
「彼女達ぃ? あんたにも言ってんの。今も何事も無く終わると思ってたんでしょ、自分が言った訳じゃないから? この子たちがぁ~って? 見た目ばっか小奇麗でも性根は腐ってんだ」
クリスが下唇を噛んで目を泳がせ、エルガはようやく微笑みを引っ込め、シェアトとルーカスと共に甲斐の元へ駆け寄って来た時、甲斐と馬乗りになられていた女子が不自然に甲斐から抜け出すと綺麗に直立した。
「大丈夫かね、どちらも女性なのだから気を付けるんだ」